上方講談 現代怪談の世界
近年、注目を浴びている、日本の伝統話芸「講談」。
「冬は義士 夏はおばけで飯を喰い」と川柳に詠まれたほど、
講談師は夏になると怪談を語ってきている。
クーラーのなかった時代、観客は講談師の語る世界に身をゆだね、
背筋を凍らせ、暑い夏を忘れた。
講談師の旭堂南湖が贈る現代怪談。
故きを温ねて新しきを知る。
名調子で語る「現代の怪談」ここにあり。
内容紹介
「第一話」(18分)
道路脇に設置されている看板、「飛び出し坊や」。
皆さんも一度は見たことがあるでしょう。いろんな子どもが描かれていますが、代表的なのが、赤い長袖に、黄色い長ズボン、黒い靴。黒目の大きな男の子。これは交通事故防止の看板。
最初に作ったのは今から、約半世紀前。当時は、交通事故の死亡者数が、約一万六千人であった。子どものイラストを描いた看板を制作し、それを道路脇へ設置した。やがて、この運動が広がり、現在では、日本全国で様々な飛び出し坊やを見ることができる。そんな、飛び出し坊やが…。
「第二話」(7分)
鱒の養殖施設。ニジマスを釣ったり、釣った魚を食べたり、魚の展示を観察して、学ぶことができる。小学生や中学生が、養鱒場に遠足や社会見学で行ったりします。
Oさんが小学二年のとき、遠足で養鱒場へ行くことになった。バスに乗って紅葉の美しい山道を進んでいく。途中、バスガイドのお姉さんが怪談を語ってくれた。夜中、誰もいない鱒の飼育池に現れたのが一人のお爺さん。
池の片脇に、「鱒のエサ五十円」と看板が出ていて、その看板の下には、小袋に入った鱒のエサが置いてある。隣にはお金を入れる箱もある。
「第三話」(14分)
「甲賀芸能祭」に出演した落語家の桂あやめ師匠。芸歴四十年以上のベテラン。
大阪からJRに乗って貴生川駅へ到着した。ここから、会場へ行くには近江鉄道に乗り換えて一駅。水口城南駅で下車。目の前が会場だ。私はあやめ師匠にそう伝えて、碧水ホールで到着を待っていたが、開演時刻になってもあやめ師匠が到着しない。心配していると、あやめ師匠から電話があって、
「もしもし、南湖君。貴生川駅で乗り換えて一駅やんなあ」
「一駅です。貴生川駅から三分で着きます。水口城南駅」
「いやー、もう十分以上走ってるけど、駅に着かんねん。どんどん山の中に入っていくねん」さてお話は…。
「第四話」(7分)
令和の現代、人は死ぬと火葬場で焼かれる。ところが現在でもごくごくわずかだが土葬の風習が残っている。これは非常に珍しいこと。
九十歳になるOさんは、自分の両親、祖父母、祖先が土葬だったので、自分も当然、土葬を希望している。しかし、Oさんの息子さんや娘さんは火葬にしたいと言っている。土葬は火葬に比べて手間暇がかかり大変だ。
息子さんがOさんに、
「なあ、じいちゃん、火葬でええやろ」「嫌じゃ」「なんでや」「熱いのは嫌」
そんなOさんが子供のころの記憶…。
「第五話」(7分)
日野菜をご存知でしょうか。カブの仲間で、カブのように丸くなく、大根のように細長い円錐形だが、太くはない。短いごぼうぐらいの大きさ。地中に埋まっている部分は、大根のように真っ白。地上に出ている上部は紫色になっている。
そもそも日野菜は、約五百五十年前、室町時代。日野の領主であった蒲生貞秀が、この菜を見つけた。日野で発見されたから日野菜。これを漬物にすると綺麗な桜色に染まる。誠に美味しい。そこで京都のお公家さんを通じて、時の帝に献上した。帝は漬物を大層気に入って、「近江なる ひものの里の さくら漬け これぞ小春の しるしなるらん」と和歌を詠んだ。日野菜の漬物は、さくら漬けとも呼ばれるようになった。さて、お話は…。
「第六話」(8分)
琵琶湖が誕生したのは約四百万年前。その頃は現在の位置ではなく、三重県伊賀辺りにあった。これが古琵琶湖。三百万年前には甲賀に辺りに移動。この辺りの地面を掘ると、古琵琶湖の名残の粘土層が出てくる。粘土の塊を地元では「ずにんこ」あるいは「ずりんこ」と呼んでいる。この粘土層が稲作に最適で、美味しい近江米ができる。子どもたちがアスファルトの道路に絵を描く時に、ずにんこを使う。ある日のこと…。
「第七話」(5分)
「南湖さん。私、ダムマニアなんです」「ダムマニア?」「ええ。ダムが好きなんです。休みの日にダムを見に行って、ダムカードも集めているんです」「ダムカード?」「これなんです」
と見せてもらったのがダムカード。表面にダムの写真、裏面には、ダムの大きさ、型式や総貯水容量、管理者など、色々な情報が書かれている。ダムの管理事務所で無料配布していて、これを集めているという。「私の推しダムは…」
「第八話」(6分)
六十代の男性、Tさん。先祖代々この土地に住んでいる。広大な土地に大きな家が建っている。母屋があって蔵もある。昔、母屋の屋根は茅葺きだったが、葺き替えの職人がいなくなり、瓦屋根に変えた。母屋の近くに大きな花壇がある。この花壇、元々は池だった。二十五メートルプールの半分ほどの大きさがある。瓢箪の形で、瓢箪の真ん中、くびれている部分には橋がかかっていた。今はその跡形もなく、花壇になっている。ある日のこと…。
「第九話」(9分)
これは私が大好きな話です。怪異に遭遇した本人は、その体験が心底恐ろしいのだろうが、その出来事を俯瞰して見ると、恐怖というよりも滑稽だったり、微笑ましく感じることがある。二つの話が最後に一つになって、この事実もまた滑稽なり。さて、お話は…。
「第十話 付録・実践的怪談師入門」(32分)
近頃、怪談を語る方が増えてきまして、怪談のイベントは年間1500以上あるそうです。怪談師の大会やコンテストもあったり、非常に人気。
付録として「実践的怪談師入門」と題して、観客の前で怪談を語るコツを、講談師の視点からお話したいと思います。これはあくまで私のやり方で、怪談師の数だけ考え方があります。また、絶対的な答えが決まっているものではありません。自分が思った通り、好きなようにやるのが一番だと思います。好きこそものの上手なれですから。また怪談だけに限らず、人に何かを伝えること、話すことのヒントになれば幸いです。
旭堂 南湖(きょくどう なんこ) プロフィール
講談師。
1973年生まれ。
滋賀県出身。
大阪芸術大学大学院修士課程卒業。
1999年、三代目旭堂南陵(無形文化財保持者・2005年死去)に入門。
2003年、大阪舞台芸術新人賞受賞。
2010年、文化庁芸術祭新人賞受賞。
2015年、『映画 講談・難波戦記-真田幸村 紅蓮の猛将-』全国ロードショー。主演作品。
2019年、CD「上方講談シリーズ4 旭堂南湖」発売。「血染の太鼓 広島商業と作新学院」「太閤記より 明智光秀の奮戦」収録。
OKOWA胎動出場
怪談グランプリ2019出場
怪談最恐戦2019ファイナル出場
東大阪てのひら怪談優秀賞受賞
ZOOMを使った「オンライン講談教室」も好評。
講談や怪談の語り方をマン・ツー・マンで懇切丁寧に指導し、普及に努めている。
講談師・旭堂南湖公式サイト https://nanko.amebaownd.com/
Twitter http://twitter.com/nanko_kyokudou
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