上方講談 現代怪談の世界
近年、注目を浴びている、日本の伝統話芸「講談」。
「冬は義士 夏はおばけで飯を喰い」と川柳に詠まれたほど、
講談師は夏になると怪談を語ってきている。
クーラーのなかった時代、観客は講談師の語る世界に身をゆだね、
背筋を凍らせ、暑い夏を忘れた。
講談師の旭堂南湖が贈る現代怪談。
故きを温ねて新しきを知る。
名調子で語る「現代の怪談」ここにあり。
内容紹介
「納豆」(9分)
四十代の女性Yさんに聞いたお話。Yさんは几帳面な性格で、毎朝の起床時間、出勤時間もちゃんと決まっています。朝食もいつも同じ。納豆ごはんと生野菜と豆乳。こう決めている。スーパーに行くと、色んな種類の納豆が売っていますが、Yさんがいつも買うのは、小粒の納豆。Yさん曰く、納豆はのどごしだそうです。納豆を食べるとき、噛まずにすすって食べるそうです。
ある夏の晩のこと。Yさんが布団で寝ていると、ズズッ、ズズッと音がした。アパートなので、他の部屋の音が多少聞こえることはあるのですが、ズズッ、ズズッという音、近くで聞こえる。押入れの中だ…。
「糸引く」(6分)
大阪に住んでいる三十代の女性Hさんに聞いたお話。出張で日本海がきれいに見える、とあるホテルに泊まることになった。ホテルの近くに回転寿司屋さんがあった。店に入る。店員さんの元気な声。漁港が近いので、魚が新鮮。これまで食べたどの回転寿司よりも美味しい。
すると、レーンの上を納豆の軍艦巻きが流れてきた。Hさんは納豆が大嫌い。これまでに一度も食べたことがない。ニオイも嫌だし、糸を引いていて、見ているだけで気持ちが悪いので、納豆の軍艦巻きはそのまま見送った。
お腹がいっぱいになり、満足してホテルへ帰り、シャワーを浴びてそのまま眠りについた。翌朝、目を覚まして、何気なく髪をかき上げると…。
「泥団子」(14分)
Sさんという三十代の女性に聞いたお話。彼女が小学生5年生の秋。虫の鳴き声が庭から聞こえてくる夜。リーリーリー、リーリーリー。見上げれば、まんまるのお月さんがある。中秋の名月には、お月さんにお供え物をと、田んぼのあぜ道に生えているすすきを取ってきて花瓶に入れ、三宝の上におだんごを乗せた。
おばあちゃんが作るお団子は、まんまるじゃない。少し横長になっている。芋名月ですから、里芋に似せたお団子をお供えしていたわけです。おばあちゃんの作るお団子はとても美味しい。その翌日、Sさんは泥団子を作って飾ることにしました…。
「河童の皿」(8分)
Tさんという男性に聞いたお話。Tさんが住んでいるところは田舎でして、ちょっと山を入ったところに、きれいな清流が流れている。子供達は夏休みになると、朝から晩まで川で遊ぶ。上流に岩がゴツゴツとしたところがありまして、その中の、一つの岩が河童の皿と呼ばれていました。岩の上なんですがお皿のように見えるのです。皿の大きさは直径三十センチぐらい。皿の深さは三センチぐらい。皿の表面は磨いたように平らで、まるで陶器で作った皿のように見えました。もちろん岩の一部が、なにかの偶然でこのような形になったのでしょう。
ここに湧き水が流れ込んでいるのです。常に水の張ったお皿で、昔から河童の皿と呼ばれている…。
「栗の木」(9分)
陽子さんという、三十代の女性に聞いたお話です。陽子さんの家は二階建て。ちょっとした庭がありまして、芝生になっている。庭には、大きな栗の木が一本生えていました。陽子さんの家族が、この土地を買ったときには、もうすでに大きな栗の木が生えておりまして、家を建てる時に、切ってしまうのももったいないと、そのままにしています。樹齢はどのぐらいかはわかりませんが、隣家のおじいさんが言うには、四十年ぐらいはあるとのことでした。
陽子さんは当時、高校生。ある冬の日の朝のこと、その栗の木の前に…。
「猫」(11分)
道子さんは、五十代の女性。お母さんと妹と三人で、二階建てのアパートに暮らしていた。道子さんが中学生の時のお話。秋の運動会が終わり、しばらく経ったある雨の日のこと。家に帰ると、猫の赤ちゃんがいた。小学生の妹が、学校帰りに段ボール箱に入れられた子猫を1匹、拾って持って帰ってきたのだ。茶色のトラ模様。小さい小さい猫。道子さんは、可愛いなぁ、家で飼いたいなぁと思った。猫を抱いたり、頭をなでたり。ずっと猫を見ていた。そこへお母さんが仕事から帰ってきて、猫を見つけるなり、アパートでは飼えないと一点張り…。
「猫のしっぽ」(7分)
二十代後半の会社員、Eさん。子供の頃、一軒家で猫を飼っていた。現在は、大阪市のワンルームマンションで一人暮らし。
去年の冬のこと。残業で夜遅くにマンションに帰ってきた。乗りこんだエレベーターの扉が閉まって、動き出す。住んでいる階で扉が開く。いつもならそうです。
ところが今日はどういうわけか扉が開かない。驚いた。この時に、扉に何かが挟まっているのに気が付いた。黒いものがユラっと動く。何だこれは。しっぽか。猫のしっぽのように見える。黒色で二十センチぐらい。ユラユラと動いている…。
「俺とちゃうで」(6分)
猫といえばこんな話もありました。徳島県に住む二十代の男性でT君。彼が小学生の時の話。ばあちゃんと、お父さんと、T君の三人で暮らしていた。和室に大きな仏壇があり、先祖の位牌が祀ってあります。仏壇には、小皿の上に、亡くなったおじいさんが好きだった羊羹が一切れ置いてある。ある夏の日。外で遊んで帰ってきたT君。ばあちゃんを驚かしてやろうと考え、ソロリソロリと忍び足で廊下を歩いて、和室の中を覗くと、ばあちゃんは昼寝をしている。仏壇の方に視線を移すと、なんと茶色の大きな猫が二本足で立っている。猫はT君の気配を感じたのか、ソーッと後ろを振り返って、T君を見ると…。
「サウナ」(12分)
渡辺さんという、五十代の男性に話を聞きました。会社の後輩にサウナを勧められて、いわゆる「ととのう」ことを知り、それからサウナが大好きになった。「ととのう」はサウナ用語です。
渡辺さん、今回は初めて行くスーパー銭湯。後輩と一緒だ。渡辺さん、サウナ室から出て、頭からシャワーで水を浴び、全身の汗を流す。そうしてから水風呂へ。
広くて深そうだ。誰も入っていない。ここの水風呂は気持ちいいだろう。全身がほてっている渡辺さんは、水風呂の梯子段のてすりにつかまりながら、後ろ向きでゆっくり入っていく。すると…。
「マラソンランナー」(9分)
二十代の女性Mさんは、寝付きもよく、いつもぐっすりと眠るという。夢もみない。いや、もちろん夢を見てはいるのだろうが、朝起きるとほとんど覚えていない。
その日は土曜日。友だちに誘われて、朝早くからハイキングに行き、温泉に入って、家に帰ってきた。軽くストレッチをして眠ると、珍しく夢を見た。
Mさんが寝ていると、なんだかわからないが青色の揃いのジャージを着た男性、女性が、5〜6名。いきなり部屋に入ってきて、寝ているMさんを布団ごと、持ち上げて、玄関から外に出た…。
「靴」(8分)
Fさんは六十代の女性。ご主人とは二十代の時に結婚し、二人の子を育てた。二歳違いの男の子たちだ。これはその子供たちがまだ小学生の頃のお話。
夏休みに家族で旅行に行き、山に登って滝を見た。山から降りる時に、長男が「靴飛ばし」をやった。足を思いっきり振って、履いている靴を前に飛ばすのだ。
その靴を見て、長男は「明日は晴れや」と言っている。靴が上を向いたから晴れだそうだ。次男坊も真似をして、靴を飛ばした。靴がひっくり返り「雨やなあ」と。お父さんも靴を飛ばした。すると靴の先が穴ぼこの中に入って、靴が逆立ちしている格好だ。「明日の天気は何やろ?」とFさんが言うと、次男坊が…。
旭堂 南湖(きょくどう なんこ) プロフィール
講談師。
1973年生まれ。
滋賀県出身。
大阪芸術大学大学院修士課程卒業。
1999年、三代目旭堂南陵(無形文化財保持者・2005年死去)に入門。
2003年、大阪舞台芸術新人賞受賞。
2010年、文化庁芸術祭新人賞受賞。
2015年、『映画 講談・難波戦記-真田幸村 紅蓮の猛将-』全国ロードショー。主演作品。
2019年、CD「上方講談シリーズ4 旭堂南湖」発売。「血染の太鼓 広島商業と作新学院」「太閤記より 明智光秀の奮戦」収録。
OKOWA胎動出場
怪談グランプリ2019出場
怪談最恐戦2019ファイナル出場
東大阪てのひら怪談優秀賞受賞
ZOOMを使った「オンライン講談教室」も好評。
講談や怪談の語り方をマン・ツー・マンで懇切丁寧に指導し、普及に努めている。
講談師・旭堂南湖公式サイト https://nanko.amebaownd.com/
Twitter http://twitter.com/nanko_kyokudou
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