上方講談 現代怪談の世界
近年、注目を浴びている、日本の伝統話芸「講談」。
「冬は義士 夏はおばけで飯を喰い」と川柳に詠まれたほど、
講談師は夏になると怪談を語ってきている。
クーラーのなかった時代、観客は講談師の語る世界に身をゆだね、
背筋を凍らせ、暑い夏を忘れた。
講談師の旭堂南湖が贈る現代怪談。
故きを温ねて新しきを知る。
名調子で語る「現代の怪談」ここにあり。
内容紹介
「コスモス」(12分)
春さんは夫と子供の三人暮らし。春さんの父親に癌が見つかって余命半年と宣告される。
父親は闘病生活の中で、嬉しいこと、幸せなことがあると、「いい人生や」というのが口癖。
近所の休耕田にコスモスの種を蒔いて、コスモス畑を作ることになりました。
種を蒔いてから、三か月後。ピンク色、紫色、赤色。一面にきれいなコスモスが咲いている。
そんなある日のこと……。
「1月24日」(11分)
北海道出身の大介さん。近所に住んでいたのが、同い年の女の子で雪ちゃん。
小さい頃から、よく一緒に遊んだ。雪ちゃんの誕生日は、一月二十四日。
毎年、近所の子供が集まって、雪ちゃんの家の前に、雪だるまを作ってプレゼントする。
雪だるまの大きさも、最初の頃は小さかったが、自分たちの身長が伸びると同時に大きくなっていった。
中学生になったときには、自分たちの背よりも高い、二メートルもある巨大雪だるまをこしらえた。
みんなで記念撮影をした。二人とも高校生になった。
高校三年生の一月二十四日。雪ちゃんは亡くなった。それから大介さんは……。
「死者の歌声」(9分)
大学の先輩でMさん。
音楽に詳しくて、最初に出会ったときに、マイベストの入ったカセットテープを貸してくれました。
三十年ぐらい前、音楽を聞くと言えば、今のようにデジタル音源ではなく、CDやカセットテープが主流でした。
自分の好きな曲ばかり集めて、マイベストのカセットテープを作ったりしていました。
インデックスカードに、歌手の名前や曲名を手書きで書いたりしました。
また、レタリングシートというのがありました。
レタリング文字をフィルムの上からこすると、下の紙に転写することができまして、そんなのを使い、綺麗に作ったりしていました。
そのMさんが……。
「こいのぼり」(7分)
高知県に住んでいる三十代のご夫婦に伺ったお話。二人は結婚して、すぐに子供ができた。
可愛らしい男の子で。二人は大喜び。それぞれのご両親も祝福してくれました。
夫の父親が、大きな鯉のぼりを買ってくれました。
一番上が、五色の吹流し。その次、真っ黒のまごい。次が真っ赤なひごい。一番下は、青色の子供の鯉、子鯉と言います。
風が吹きますと、楽しそうに空を泳いでいます。
近頃は、こんな大きな鯉のぼりを上げる家も少なくなってきましたので、近所でも評判となっている。
ところが、息子さんが三歳の時に、病気が見つかった。大きな病院に入院し、夫婦はとても心配しました。
「お歯黒」(16分)
京都の下京区に住んでいる、高校生で涼子さん。関東から京都へ引っ越してきた。高校の手前にコンビニがあった。
京都のコンビニは看板がおとなしい。全体的に目立たぬようにひっそりとしている。
古い街並み、京都の景観を壊さないためなんだなあと思った。
道路脇に、鉄柱があり、その上にも、コンビニの看板がある。その鉄柱の側に、薄い桃色の着物を着た女性が立っている。
横浜で着物姿の女性はあまり見なかったが、さすがは京都らしいと嬉しくなった。
その女性の顔をチラッと見て、涼子さんはギョッとした。どうしてかというと……。
「ラグビーボール」(11分)
二十年以上前のこと。野田君は、当時、高校二年生。クラスで、一番背が高い。
ラグビー部に入っていて、毎日練習に励んでいる。秋だ。グラウンドの向こうには山が連なっており、山の緑が色付き始めた。
ランニングでは、学校を出て田んぼの中に一本道を走っていく。
ラグビー部に入ってから、何度何度も走っている道。田んぼでは、もう稲刈りは始まっている。
いよいよ、来週は試合だ。絶対勝つぞ。そんなことを考えながら、前を走っていた雄二を抜いて、学校へ戻った。
雄二が亡くなったと聞いたのは、その翌日だ。
「般若の面」(17分)
龍一さんは、右目が潰れている。眉毛の上から、頬にかけて、約十センチの刀傷。
初対面の人はいつも化け物に出会ったような表情になるという。今年三十歳。笑顔の素敵な男性です。
龍一さんのお父さんは、龍一さんが三歳の頃に亡くなった。龍一さんを大変可愛がってくれたそうだが、記憶にない。
龍一さんの記憶にあるのは、新しいお父さんだ。小学校に入るとき、お母さんに、「今日から、この人が新しいお父さんだよ」と紹介された。
新しいお父さんは、「俺のことをお父さんと呼ぶんだぞ」と、言った。
龍一さんは、新しいお父さんをまっすぐ見つめながら、「嫌だ」と言った。
「お父さんは、僕が三歳の時に、病気で亡くなったんだ。おじさんはお父さんじゃない」
「崖」(12分)
四十代の男性で、直人さん。小学生の頃、近所の山を切り開いて、真ん中に、新しい道を通すことになった。
工事が進むと、山を巨大な彫刻刀でググググと削ったような、荒々しい土道が現れた。
左右は切り立った崖になっていて、上からザーッと砂が落ちてくる。崖の高さは、二階建ての家よりも高く見えた。
すると、どこから現れたのか、道の真ん中にリスが二匹。ピョンピョン飛び跳ねている。
直人君と一緒にいた友達のA君が「おい。リスを追いかけようや」と言って、崖を登り始めた。直人さんも一緒に登り始める。
「手首」(14分)
西川さんという和歌山県の四十代男性が手首を拾ったのは十二月のある寒い晩のこと。
会社帰り、道端に、手首が落ちていた。最初は手袋だと思ったが、手首だった。
この話に関連するのか、香川県の松本君という二十代の男性も十二月のある日に手首を拾った。
松本君の趣味は釣り。あなご釣りに出かけた。釣れたのがあなごと手首だった。
最初は手袋かと思ったが、爪があった。さらに、これもまた少し似た話で、北村さんという五十代女性の体験談。
この三つの出来事から考えると……。
旭堂 南湖(きょくどう なんこ) プロフィール
講談師。
1973年生まれ。
滋賀県出身。
大阪芸術大学大学院修士課程卒業。
1999年、三代目旭堂南陵(無形文化財保持者・2005年死去)に入門。
2003年、大阪舞台芸術新人賞受賞。
2010年、文化庁芸術祭新人賞受賞。
2015年、『映画 講談・難波戦記-真田幸村 紅蓮の猛将-』全国ロードショー。主演作品。
2019年、CD「上方講談シリーズ4 旭堂南湖」発売。「血染の太鼓 広島商業と作新学院」「太閤記より 明智光秀の奮戦」収録。
OKOWA胎動出場
怪談グランプリ2019出場
怪談最恐戦2019ファイナル出場
東大阪てのひら怪談優秀賞受賞
ZOOMを使った「オンライン講談教室」も好評。
講談や怪談の語り方をマン・ツー・マンで懇切丁寧に指導し、普及に努めている。
講談師・旭堂南湖公式サイト https://nanko.amebaownd.com/
Twitter http://twitter.com/nanko_kyokudou
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