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上方講談 現代怪談の世界

近年、注目を浴びている、日本の伝統話芸「講談」。
「冬は義士 夏はおばけで飯を喰い」と川柳に詠まれたほど、 講談師は夏になると怪談を語ってきている。

クーラーのなかった時代、観客は講談師の語る世界に身をゆだね、 背筋を凍らせ、暑い夏を忘れた。

講談師の旭堂南湖が贈る現代怪談。
故きを温ねて新しきを知る。
名調子で語る「現代の怪談」ここにあり。

内容紹介

「コーヒー」(11分)
年配の女性から聞いたお話です。長年連れ添った旦那さんがいまして、もうすぐ金婚式を迎えようという。結婚してから、ほとんど喧嘩もしない、仲の良いご夫婦。二人ともコーヒーが好きで、毎日コーヒーを淹れて飲んでいる。いつもコーヒーメーカーで作っていた。機械に水を入れ、紙のフィルターに挽いた豆を入れる。スイッチを入れると、しばらくしていい香りが漂ってきて、コーヒーが出来上がる。
二人共、昼下がり、お菓子を食べながら、コーヒーを飲みながら、お喋りするのが好きだった。旦那さんは苦味の強いマンデリンが好きで、奥さんは酸味のあるモカマタリが好きだった。ある日のこと…。

「エイリアン」(10分)
五十代の女性で、ミホさん。子供の頃、テレビで映画をやっていまして、これが「エイリアン」。ご存じの方も多いでしょう。リドリー・スコット監督、シガニー、ウィーバー主演。エイリアンのデザインは、H・R・ギーガーという。映画史に残る傑作です。私も大好きな映画です。
宇宙船の中で、乗組員の胸から、エイリアンが飛び出すシーンは、子供のミホさんに強い印象を残した。トラウマといいましょうかねえ。寝るときも、ひょっとすると自分の中にエイリアンがいて、いつか体を食い破って出てくるんじゃないか、そんな思いがありました。大人になったミホさんが…。

「火星」(6分)
男性のお話。子供の頃、家の前には自然いっぱい、果物畑が広がっていた。
自然が多いから、様々な鳥が飛んでくる。ヒヨドリ、ムクドリ、シジュウカラ、ウグイス、キジバト、アカゲラ、キジ。親に双眼鏡を買ってもらい、野鳥観察するのが好きだった。
ある初夏の夜のこと。二階の一室で、布団で寝ていたこの男性。クーラーのない部屋。大きな窓が二か所あり、両方の窓を開けて、網戸にしていると、風がスーッと通り抜けて気持ちいい。寝ながら窓の外を見ると、満月が見えた。そうだ。あの双眼鏡で、一度、月を眺めてみようと考えた。すると…。

「横断歩道」(4分)
マキさんは、祖父のお見舞いに病院に向かって歩いていた。初めて行く病院なので、迷いながら、時々立ち止まって、スマホで地図を確認する。方向音痴なので、何度か道を戻ったりして、ようやく病院を見つけた。片側二車線の大きな道路があって、道路を渡った向こうに目指す病院があった。信号は赤だ。信号待ちをしている時、スマホで、友達からのメッセージが届いていないか、チェックをした。そろそろ信号が変わったかな、と顔をあげると、まだ赤だ。あっ、思わず、声を出した。というのは…。

「小魚の干物」(8分)
岸田君。二十代後半の男性に聞いた話。岸田君は当時、大阪に住む大学生。同じ学科の友達が出来た。白井君という。白井君は明るくて、友達が多く、サークルを二つ掛け持ちしている。アルバイトも二つやっている。いつもニコニコ笑っている青年。表情は明るいが、目の下にクマが出来ているのが気になった。
ある日のこと、岸田君は白井君の部屋に遊び行くと、ベッドの側に、空気がパンパンに入った浮き輪と、シュノーケルセットがあった。白井君は海に行く予定はないと言った。

「ラオスの幽霊」(9分)
コロナ禍になりまして、海外旅行に行く機会もなくなってしまいましたが、十年程前、ラオスに行きました。ラオスにはカイルークという食べ物があります。カイは雛、ルークは卵という意味。鶏の雛の卵です。鶏が孵化する前の卵を蒸し器に入れて、蒸し上げる。とても美味い食べ物。卵の殻をむくと、生まれる直前の鶏の赤ちゃんが出てくる。顔、くちばし、目玉、羽根、水かき、内臓。ちゃんと分かります。見た目はちょっと気持ち悪い。しかし、一口食べると、鶏肉の美味さと卵の美味さが口の中で、一体となる。卵の底に沈む汁は、絶品の鶏がらスープの味がする。屋台がありまして、駕籠に卵を入れて売っていたので、私はカイルークを食べてみようと思って、買い求めました。卵の殻をむくと、生卵でした。さて、ラオスでは…。 。

「事故」(19分)
二十代の雄一さん。家の近所に、片側二車線、全部で四車線の大きな道路があります。歩道も広い。自転車が通るスペースと、歩くスペースに分かれている。いつもその道を歩いて、会社に行っている。
今日は休みだ。近所をぶらぶら散歩をしながら、買い物しよう。毎日歩いている道とは反対方向に歩き出した。普段はこちら方面にはこない。川に差し掛かる。川幅は五十メートルぐらいか。二車線の道路は左に曲がりながら、急な上り坂になり、その川の上が橋になっている。橋を越えると、今度は急な下り坂になる。その時…。

「ラジオ塔」(9分)
地下鉄「谷町四丁目」の駅を出ると、NHK大阪放送局があります。BKとも申します。東京のNHKがAKで、大阪はBK。なぜBKというのか。古い漫才のギャグですが、馬場町というところに、放送局がありましたから、「馬場町の角」でBK。面白いですね。NHKの隣には、大阪歴史博物館、向かいには大阪府警察本部がありまして、この建物も、どことなくお城っぽい。ゴツゴツとした面白い建物です。設計は黒川紀章さん。道路を渡って、大阪城の方に向かいますと、ここからお城がきれいに見えます。ある年配のご婦人から聞いたお話です。

「南陵の戦争体験」(35分)
私の師匠も亡くなって十七年。戦争体験を語る方も少なくなってきました。ここに貴重な記録を残しておきたいと考えました。題して、南陵の戦争体験。今の世の中では、無理に兵隊に入れられることはないが、昭和初期、日本が戦争をしていた頃は、二十歳前になると、体を調べられ、甲種、乙種、丙種と分けられて、健康な甲種の者は、二十歳の一月、恐怖と寒さに震えながら、兵営に送られるであった。
昭和十一年一月の早朝。夜はまだ明けていない、軍の身体検査で甲種と印を押された三代目南陵は、生国魂神社の御旅所で、台の上に上がった。ビュービューと寒い風が吹いて、集まった皆は朝酒で一杯機嫌で浮かれていた。在郷軍人の下士官は、楽しげに挨拶をしている。この仕事のために、彼らは戦地に送られず、内地で安楽に暮らせるのである。南陵はまるで地獄の案内人だと思ったそうです。やがて、一緒に兵営に行く菓子屋の倅が挨拶をする。
「一死報国。国のため、死する覚悟でございます」
と、心にもないことを小さな声で喋る。皆は「ばんざーい、ばんざーい」と大声を上げる。南陵が、戦友に聞いた不思議なお話。

旭堂 南湖（きょくどう なんこ） プロフィール

講談師。
1973年生まれ。
滋賀県出身。
大阪芸術大学大学院修士課程卒業。

1999年、三代目旭堂南陵（無形文化財保持者・2005年死去）に入門。
2003年、大阪舞台芸術新人賞受賞。
2010年、文化庁芸術祭新人賞受賞。
2015年、『映画 講談・難波戦記-真田幸村 紅蓮の猛将-』全国ロードショー。主演作品。
2019年、CD「上方講談シリーズ4 旭堂南湖」発売。「血染の太鼓 広島商業と作新学院」「太閤記より 明智光秀の奮戦」収録。

OKOWA胎動出場
怪談グランプリ2019出場
怪談最恐戦2019ファイナル出場
東大阪てのひら怪談優秀賞受賞

ZOOMを使った「オンライン講談教室」も好評。
講談や怪談の語り方をマン・ツー・マンで懇切丁寧に指導し、普及に努めている。

講談師・旭堂南湖公式サイト https://nanko.amebaownd.com/
Twitter http://twitter.com/nanko_kyokudou

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