上方講談 現代怪談の世界
近年、注目を浴びている、日本の伝統話芸「講談」。
「冬は義士 夏はおばけで飯を喰い」と川柳に詠まれたほど、
講談師は夏になると怪談を語ってきている。
クーラーのなかった時代、観客は講談師の語る世界に身をゆだね、
背筋を凍らせ、暑い夏を忘れた。
講談師の旭堂南湖が贈る現代怪談。
故きを温ねて新しきを知る。
名調子で語る「現代の怪談」ここにあり。
内容紹介
「その1」(8分)
二十代の男性でEさん。おじいさんが漁師をやっている。
同居しているわけではないが、近くに住んでいて、時々、おじいさんの元へ行っては漁の手伝いをしている。ある時、おじいさんが、不思議な体験を話しだした。
「もう五十年の前だが、一人で夜に漁をしておった。すると、死骸が浮かんでおってな。 背の高い男で、頭がツルツルで眉毛もなく、目だけが異常に大きい。服を着ておらんだけじゃなく、全身が透き通っていて、内臓が見えているのじゃが、人間の構造とは少し違っているように見えた」
果たしておじいさんが見たものは…。
「その2」(13分)
五十代後半の男性、Mさん。兄が一人いて、父と母、四人で暮らしていたそうだ。そうだというのは、Mさんが幼稚園に通っていた頃、両親が離婚しMさんと兄は、母親が引き取った。Mさんはまだ幼かったので、当時の事情は分からなかった。
うっすらと、記憶にあるのは、うつぶせに寝ている父親の背中を、3歳ぐらいのMさんが、よちよちと歩いている光景。その時の父親の顔や声は覚えていない。なんで父の背中を歩いているのか、父は笑っているのか、怒っているのかも、覚えていない。ぼんやりとその光景を覚えている。
そんな父が…。
「その3」(12分)
二十代の男性Oさんは三人兄弟の長男。父親は農家をしていた。
Oさんは農業をするつもりもなかったので、普通に会社に就職して、田植え、稲刈りなど、忙しい時だけ、兄弟が集まって父親を手伝っていた。
ところが、お父さんが急に亡くなってしまい田んぼだけが残ってしまった。
兄弟に相談すると、誰も田んぼを継ぐ気はない。Oさん、会社の仕事自体は面白いのだが、上司とそりが合わない。そこで仕事をすっぱり辞めて父の跡を継ぎ、農家として暮らしていくことになった。
父は生前、「農家は食えんから、やめておけ」と、酒を飲んだら必ず言ってはいたが、跡を継いで、先祖から伝わる田んぼを守ると言ったら、本心では喜んでくれているだろうと思った。そんなある日…。
「その4」(8分)
二十代の男性でIさん。小学四年生の時に、お父さんの仕事の都合で引っ越しをした。春休みだった。
玄関には段ボールが積み上げてあって、お父さんとお母さん、お姉ちゃんは作業をしている。Iさんは好奇心旺盛だったので、一人で、近所を探索してみることにした。
馴染みのない場所、風景が新鮮で、小川がきれいに流れている。川を見ながらとことこと歩く。メダカが泳いでいる。歩いているうちに、辺りが薄暗くなってきた。
ブランコやシーソー、砂場のある公園があった。そこに高さが十五メートルぐらいの一本の大きな木があった。ミズキの木。広葉樹。
その前に、Iさんと同じ年頃の少年が立っていた。少年の手には藁人形が…。
「その5」(10分)
三十代の女性のMさん。高校の時の同級生CちゃんとNちゃんと休みの日、旅行に行くことにした。
「ねえねえ、これから行く島はパワースポットだって」
「いいね。どれぐらいの大きさの島なの」
「周囲が二キロぐらい」
「へー、結構大きいね」
「どうやって行くの」
「泳いで」
「まさか」
港から船に乗って島へ。売店、お土産屋さんを通り過ぎると、長い石段がある。
上がると、大弁財天を祀ったお寺の本堂。
手を清めて、お参りし、三人がかわらけ投げをすることになった…。
「その6」(11分)
三十代の女性でOさん。母方の祖父が八十七歳で亡くなった。
コロナ禍になり、二年程会えなくなって、どうしているかなあと思っていたら、突然亡くなったと連絡があった。
Oさんは、祖父の生まれ故郷に一度も行ったことがない。
車をズーッと走らせて、さらに峠を三つ越した先にある。よく言えば、桃源郷のような、悪く言えば、ど田舎だそうだ。昭和初期は、多くの人口があったそうだが、生活するのにあまりに不便なので、どんどん人口が減って、人が住んでいるのかどうかもわからない。
Oさんの母親が十歳の時、一家は土地を離れ、今のところに引っ越した。それ以来、母親も村には帰っていないという。Oさんはそんな村に行ってみたいと思って…。
「その7」(11分)
四十代の男性Tさん。奥さんと小学三年生の男の子とマンションで三人暮らしをしていた。
毎年、夏休みになるとお気に入りの海水浴場へ泳ぎに行く。監視員が一人いて、更衣室、トイレ、シャワーもちゃんとある。地元の方が利用するこじんまりとしたビーチ。
子供が小さい頃から、ここならのんびりできると、毎年通っていたのだった。
ビーチのすぐ側に民宿があって、海から上がると、風呂に直行できるのも嬉しい。民宿の魚料理がとても美味しい。今年もやってきた。すると、子供の手に…。
「その8」(8分)
四十代の女性でYさん。大学生当時、マンションで同じ学校に通っている女の子、Pちゃんとルームシェアをしていた。二人とも映画が好きで、その頃は、よくレンタルビデオ屋に通っていた。
Yさんはバイオレンスアクションとかホラー映画好き。Pちゃんはコメディや、ミニシアター系の映画が好きだった。二人で『レザボア・ドッグス』を観た後で、ビデオ屋にいくことになり…。
「その9」(9分)
男子高校生のD君。家の近所に小川があり、河原には葦が大量に生えている。この小川には小さな橋が架かっていた。近所のばあさん曰く、ここはあまりいい場所ではないらしい。その昔、織田信長に攻められて、多くの武将がこの河原で打ち首になった。だから、首切り河原と呼ばれていたそうだ。
「そういえば、小学校の時、写生大会がこの河原であって、クラスメイトで、誰かがふざけて、河原の大きな石を持ち上げて、それを自分の足の上に落として、骨折した奴がいたなあ。あれは確かYだ」そのYがデキ婚で結婚することになり…。
「その10」(7分)
三十代の女性Kさん。お盆に母親の田舎へ帰った。山があり川があり田んぼがあって、古き良き日本の風景である。
大好きだった祖母が亡くなった新盆。朝早くから、セミの鳴き声が聞こえてきた。
夜には家の周りは真っ暗になる。街灯もない。田んぼの向こうに、雑木林があり、さらにその奥に神社がある。真っ暗だ。都会で生まれ育ったKさんは、この暗さに慣れず、闇が怖いと思った。ある晩のこと、雨がしとしと降っており…。
「その11」(7分)
三十代の女性でFさん。山登りが好きで、休みのたびに、一人で朝早くから登山をしている。
秋のある日。その山へやってきた。杉林の中を歩いて、五合目についた。赤い屋根の小屋があり、小屋についた鐘を鳴らしてみると、カーンカーンと澄み切ったいい音がなった。 紅葉は美しく、秋風が気持ちいい。そんな時、上から降りてくる人があった。いや、人じゃない。動きがぎこちない。男性には違いないのだが、ようやく完成したばかりの二足歩行ロボットのように、ぎこちなく歩いている…。
「その12」(6分)
二十代の女性でUさん。会社員。その日は、コロナワクチンを接種するため、仕事は午前中で終わり。会社を出て接種会場へ。
やがて、家に帰ってきたUさんは、ワクチンの副反応があるかもしれないからと、さっさとお風呂に入って、早めにベッドで休もうと考えた。
すると、風呂場で突然聞こえたのが、バサバサッという鳥の羽音。驚いて上を見ると、鳥などどこにもいない。いつも通り、静かに換気扇が回っているだけだった。風呂を出ると、自衛隊のヘリコプターが…。
「その13」(6分)
五十代の女性Rさん。阪急の箕面駅。
北側に一つだけある改札を出て少し歩くと、道路を挟んでカフェがある。そのお店の真ん前に立っている石碑。これが義士萱野三平之旧跡の碑である。
若い方はご存知ないかも分かりませんが、忠臣蔵として有名、講談では赤穂義士伝。歌舞伎では仮名手本忠臣蔵。萱野三平をモデルとして、早野勘平という人物が出てくる。妻はお軽。お軽と勘平の二人。ダジャレ好きのおっさん曰く「オカルト勘平」…。
「その14」(6分)
四十代の男性Gさん。マンションで一人暮らしをしている。自炊は全くせず、冷蔵庫も大きくない。中には缶ビール、チューハイ。それに酒のあて。納豆、チーズ。それに乾き物のスルメもなぜか入れてある。
ある日、台所にマヨネーズが出ていたので、あれ?と思った。昨晩、マヨネーズなんて使っていないのに、なんで台所に出ているのか。Gさんは冷蔵庫に向かって、「なんやそれ」と呟いた。すると…。
旭堂 南湖(きょくどう なんこ) プロフィール
講談師。
1973年生まれ。
滋賀県出身。
大阪芸術大学大学院修士課程卒業。
1999年、三代目旭堂南陵(無形文化財保持者・2005年死去)に入門。
2003年、大阪舞台芸術新人賞受賞。
2010年、文化庁芸術祭新人賞受賞。
2015年、『映画 講談・難波戦記-真田幸村 紅蓮の猛将-』全国ロードショー。主演作品。
2019年、CD「上方講談シリーズ4 旭堂南湖」発売。「血染の太鼓 広島商業と作新学院」「太閤記より 明智光秀の奮戦」収録。
OKOWA胎動出場
怪談グランプリ2019出場
怪談最恐戦2019ファイナル出場
東大阪てのひら怪談優秀賞受賞
ZOOMを使った「オンライン講談教室」も好評。
講談や怪談の語り方をマン・ツー・マンで懇切丁寧に指導し、普及に努めている。
講談師・旭堂南湖公式サイト https://nanko.amebaownd.com/
Twitter http://twitter.com/nanko_kyokudou
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