作品紹介
鈴木三重吉は日本の児童文化運動の父として知られています。
彼は、政府が主導する唱歌や説話の質に不満を持ち、子供の感性を育むためには、本当に良い作品を届けなければならないという哲学のもとで、童話と童謡の雑誌「赤い鳥」を創刊しました。その創刊号には、芥川龍之介、有島武郎、泉鏡花、北原白秋らが賛同し、後には菊池寛や、谷崎潤一郎らも作品を寄稿しました。また、「赤い鳥」には多くの作家、作詞家、作曲家、画家が賛同し、参加したのみならず、彼らが世に出るきっかけとなりました。
三重吉自身も創作童話のみならず、世界各国の物語を児童向けの童話として、沢山の作品を発表しています。
このオーディオブックは、鈴木三重吉がお子様に対しても真剣に一人の人間として向き合って、千差万別の人間模様を描いた童話が収められたものです。是非親子で一緒に触れてみてはいかがでしょうか?
「湖水の鐘」
ある山の村に、綺麗な青い湖がありました。
その湖水の底には妖女の王様が、美しい三人の王女と一緒に住んでいました。
皆は楽しく暮らしていましたが、ある時、やって来た旅人によって、湖水のそばに神様の礼拝堂が建てられました。礼拝堂の番人は日に三度ずつ礼拝堂の鐘を鳴らしましたが、妖女たちにとっては、この鐘の音が怖くてたまらないのでした。
王様は湖水のなかに藻草の茎を集めて厚い覆いを作らせましたが、鐘の音はやすやすと覆いを越えて聞こえてくるので、王女や小さな妖女たちは脅えておんおん泣きました。
村の牛飼いや羊飼いたちはこの泣き声を気味悪がって、近くの草原には出て来なくなりました。
そのうちにある羊飼いの若者が余所からやってきました。
若者は湖水の縁の草原には決して行かないよう注意されましたが、剛情な若者はそう言われると、わざと夜一人で出かけて行って、湖水の縁で焚火をしていました。
そこに、妖女の王様が現れ、礼拝堂の鐘を水の底に投げ込んでくれたら、金と銀を一袋ずつあげようと若者を誘うのですが……
「ロバート王」
昔シシリヤにロバートという王様がいました。このロバート王は大変傲慢で身勝手な人で、国民が困ったり苦しんでいるのも構わずに、やりたい放題に振る舞っていました。
ある時王は夜の祈りの式で歌われていたラテン語の合唱の中に、ある歌詞が度々出て来ることが気になって、そばにいた坊さまにその詞の意味を聞きました。
その詞は、
「神は権力あるものを、すべて、彼らの席より下し、いやしきものを、その位につけ給えり」という意味でした。
王様は馬鹿馬鹿しいと鼻で笑って、そのうちにうとうとし始め、とうとう祈りの式が終わったのも知らずにぐうぐう眠り続けていました。
やがて目を覚ましてみますと、あたりはしいんとして、真っ暗です。
お付きの者も一人もおらず、王一人が礼拝堂の中に取り残されているのでした。
王は怒って「誰か来い、出て来い」と騒ぎ立てますが、相手にされません。
王は気付いていませんが、実はいつの間にか王冠をはぎ取られ、ぼろぼろの着物に着せ替えられていました。
そして、王が王宮に駆け込むと、玉座には自分そっくりの男が王に成りすまして座っていたのです……
収録作品
湖水の鐘
ロバート王
銀の泉
おうむの片足
もみの木
おじいさんと小人
男爵ミュンヒハウゼン
影
めがね
こしかけと手おけ
漂流きだん
勇士ウォルター
黒い鳥
きほうこうかんもんの戦闘
七人兄弟
れっぷガートルード
人くい人
猫のおじさん
鈴木三重吉(すずき・みえきち)
小説家・童話作家。1882年、広島の生まれ。
東京帝国大学において夏目漱石に師事した後、その門下となる。短編小説「千鳥」を「ホトトギス」に発表して認められ、作家としてデビューした。
その後も浪漫的・抒情的な作品を書き注目を受けたが,しだいに童話への関心を深め1916年童話集「湖水の女」を出し、1918年、児童雑誌「赤い鳥」を創刊。坪田譲治、新美南吉らの童話作家を育てた。
代表作には小説「小鳥の巣」「桑の実」「世界童話集」など。
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