作品紹介
鈴木三重吉は日本の児童文化運動の父として知られています。
彼は、政府が主導する唱歌や説話の質に不満を持ち、子供の感性を育むためには、本当に良い作品を届けなければならないという哲学のもとで、童話と童謡の雑誌「赤い鳥」を創刊しました。その創刊号には、芥川龍之介、有島武郎、泉鏡花、北原白秋らが賛同し、後には菊池寛や、谷崎潤一郎らも作品を寄稿しました。また、「赤い鳥」には多くの作家、作詞家、作曲家、画家が賛同し、参加したのみならず、彼らが世に出るきっかけとなりました。
三重吉自身も創作童話のみならず、世界各国の物語を児童向けの童話として、沢山の作品を発表しています。
このオーディオブックは、鈴木三重吉がお子様に対しても真剣に一人の人間として向き合って、千差万別の人間模様を描いた童話が収められたものです。是非親子で一緒に触れてみてはいかがでしょうか?
「石像王子」
昔、猟が大層好きな王さまがいました。王さまにはまだ王妃がおらず、役人たちも早く王妃をお貰いになってお世継ぎの王子をおもうけになるよう、事ある度に勧めましたが、ただひたすら猟に夢中になるばかりでした。
ですがある日、カラスを仕留めた王様は、カラスが真っ白な大理石の上に血を流して倒れているのを見て、烏の羽根のように黒い髪と、この石のように真っ白な肌と、この地のような真っ赤な頬をした人がいれば、俺はすぐに王妃にもらうのだが、と思いました。
そしてその日からじっとお部屋にこもりきりになってしまい、ふさぎ込んで猟にも出掛けなくなってしまいました。
兄想いの弟のゼナリー王子はすっかり痩せ細った王さまの悩みを聞き、王様の理想の美しい人を見つけて来ると約束して旅に出たのですが……。
「魔女の踊」
ある村にジャコーという若い靴屋がいました。しかし、村には靴の直しさえもめったに来ないので、食べていきようがなく、困った末に村を出てしまいました。
そして、王さまの都のそばまでやって来ました。日が暮れかけて泊まるところをさがしていると、一人の年を取ったお祖父さんが現われて、
「あの御殿などはがら空きだ。ほんとに勿体ない話だ」
と言いました。そこは元王さまの御殿だったのですが、中には大変な魔物がいて、人が入って来るとすぐに取って食べてしまうのだそうです。
また御殿には宝がいっぱいあるのに魔物のために取り戻すことも出来ないのです。そのために誰でもあの御殿に行って一晩泊って来ると大変なご褒美がもらえるのだと言います。それを聞いたジャコーは挑戦してやろうと息巻くのですが……
収録作品
石像王子
おなかの皮
機関車
大勇士
魔女の踊
神のしもべ
少女軍
烏のもらひ子
珊瑚
秘密
うそ話
おぢいさんと三人のわるもの
顔
小熊
魔法のゆびわ
うらなひ
あひるの子
馬の耳
パナマ運河を開いた話
金のまり
漁師と金の魚
やんちゃ猿
どんぐりこぼうず
ハッサンの話
ぶしょうもの
コリシーアムの闘技
しょうぢきもの
悪狐
かたつむり
かがり針
ヂャイアント
天使
鈴木三重吉(すずき・みえきち)
小説家・童話作家。1882年、広島の生まれ。
東京帝国大学において夏目漱石に師事した後、その門下となる。短編小説「千鳥」を「ホトトギス」に発表して認められ、作家としてデビューした。
その後も浪漫的・抒情的な作品を書き注目を受けたが,しだいに童話への関心を深め1916年童話集「湖水の女」を出し、1918年、児童雑誌「赤い鳥」を創刊。坪田譲治、新美南吉らの童話作家を育てた。
代表作には小説「小鳥の巣」「桑の実」「世界童話集」など。
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