作品紹介
鈴木三重吉は日本の児童文化運動の父として知られています。
彼は、政府が主導する唱歌や説話の質に不満を持ち、子供の感性を育むためには、本当に良い作品を届けなければならないという哲学のもとで、童話と童謡の雑誌「赤い鳥」を創刊しました。その創刊号には、芥川龍之介、有島武郎、泉鏡花、北原白秋らが賛同し、後には菊池寛や、谷崎潤一郎らも作品を寄稿しました。また、「赤い鳥」には多くの作家、作詞家、作曲家、画家が賛同し、参加したのみならず、彼らが世に出るきっかけとなりました。
三重吉自身も創作童話のみならず、世界各国の物語を児童向けの童話として、沢山の作品を発表しています。
このオーディオブックは、鈴木三重吉がお子様に対しても真剣に一人の人間として向き合って、千差万別の人間模様を描いた童話が収められたものです。是非親子で一緒に触れてみてはいかがでしょうか?
「魔法の鳥」
ある日、ある都の年若い王さまの元に、王さまお気に入りの、年を取った一番かしらの家来がご機嫌伺いにやってきたが、王さまは家来の沈んだ顔つきが気になった。
なんでも、旅商人がやって来ており、ビックリするほどの立派な品物ばかり扱っていたが、大変高価で手が出ないのだという。王さまは笑って、
「それほどほしいものなら、おれが買ってやろう」
と旅商人を呼ばせ、数々の品物の中から、家来の欲しがっていた品物を買ってやるが、旅商人の荷物の箱の下の方に小さな引き出しを見つける。その中には小さな黒い箱と、なんだか得体のしれない字の書いてある紙切れが入っていた。気になった王さまはその箱と紙切れを旅商人から買い取るのだが……
「小僧の王子」
ある村の靴屋に一人の小僧がいた。小僧は両親を失ってしまって、その靴屋に弟子奉公に入ったのだった。主人が厳しい人であったこともあり、いたずら好きだった小僧も、ちゃんと腕を上げて、三年も経つと一人前の仕事が出来るようになった。
ある日のこと、主人は小僧に、今日は仕事を休んで森に行って、木釘を拵えて来いと言いつけた。久しぶりの休みに心が浮き立った小僧は、木釘のことを忘れて夕方までぶらぶら遊んでしまった。小僧ははっと木釘のことを思い出したが、材料になるニワトコの木がどこにも見つからずに困り果ててしまう。
日が暮れて、途方に暮れている小僧の前に犬が一匹やって来て、「おたのみしたいことがあるから、森の中まで来てください」という。小僧は仕方なしに犬について行くが……
収録作品
魔法の鳥
蛇つかひ
青い顏かけの勇士
からすの着物
こりこり物語
お話ずき
かぐや姫
なまけもの
長鼻物語
ピイピイとブウブウ
六人の少年王
小僧の王子
おしゃべりばあさん
小犬
うば車
お猿の飛行士
黄金鳥
綱びき
悪魔と馬
ダマスカスの賢者
かるたの王さま
一本足の兵隊
しあはせもの
黒い小猫
大男と大女
てがみ
鈴木三重吉(すずき・みえきち)
小説家・童話作家。1882年、広島の生まれ。
東京帝国大学において夏目漱石に師事した後、その門下となる。短編小説「千鳥」を「ホトトギス」に発表して認められ、作家としてデビューした。
その後も浪漫的・抒情的な作品を書き注目を受けたが,しだいに童話への関心を深め1916年童話集「湖水の女」を出し、1918年、児童雑誌「赤い鳥」を創刊。坪田譲治、新美南吉らの童話作家を育てた。
代表作には小説「小鳥の巣」「桑の実」「世界童話集」など。
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