内容紹介
仏教と儒教、
人生にどう活かすか
『禅と陽明学』上巻では安岡正篤が「仏教」の禅の考え方をどのように捉えたのか。
インドからどのように入り、中国にどのような影響を与え、日本に伝わったかを解説している。
禅の六祖・慧能(えのう)が懇々と教えている大事な要点は、佛というものは決して人間を超越した存在ではない、ということである。信仰者は佛を超越的存在に持ってゆきたがるが、佛というものは、自身、吾、心、衆生を離れては決して存在しない。
一方、儒教は、どこまでも人間と現実に徹して、情熱をもってこれを改めてゆこうとするもので、必ずしもその成功を求めない。良心、真理、道を旨とし、実践に徹してゆこうとするのがその真面目である。
儒教、道教、佛教は違うというけれども、世間一般に言うような差異ではない。儒教でも、「命(めい)に従う」とか「運を啓(ひら)く」というような問題になれば、浄土門の佛にすがるというのと同工異曲である。だから現れる形は違っても、少し奥へ入れば真理は一つ。諸教は帰するところみな同じである。
収録内容
第一章 禅の先駆「ヨーガ」
佛教の兄弟「ヨーガ」/古代インドの宗教/宗教の哲学化
ヨーガの五段階/無明・欣・厭/梵神の象徴〈唵〉
師資相承/玄牝/十二因縁
四諦/三学/六度
諸教帰一/禅心/三昧と神通
不浄観と安般念〈数息観〉/禅観/人生の四期
バラモン階級の行き詰まり
第二章 釈迦が徹見したダルマ〈法〉
釈迦の大悟/階級の否定/釈迦の達観
佛法と王法/釈迦の本領/ダルマ〈法〉
三欲・五濁/劫濁/衆生濁・命濁
煩悩濁の五濁/見濁五見/釈迦佛教の大眼目
第三章 大乗と小乗ーー「大学」と「小学」
拈華微笑/三蔵の結集/大乗と小乗
小乗の形式主義/上求菩提・下化衆生/出家道に徹する小乗
聖徳太子の英断/釈迦の神聖化/釈尊を心の中に生かす
灰身滅智/心の自在三昧こそ涅槃/「大学」と「小学」
声聞・縁覚・菩薩/諸法空相/般若経
諸法実相/即身成佛/小乗の悟力
一乗妙法/須弥山説/四天王
天主閣/有頂天
第四章 佛教と老荘思想
佛教伝来時の中国社会/現実逃避/黄崖教の乱
桃源郷/竹林の七賢/安世高・支讖・康僧会
曇摩迦羅・朱士行/竺法護・佛図澄
第五章 梁の武帝の狂信
魏晋南北朝時代/五胡十六国/玄儒文史
梁の武帝/武帝の狂信/梁の滅亡
六朝文化人の弱点/歴史は将来を暗示する/佛教の功徳
第六章 達磨の正覚ーー二入四行論
自己と真理の冥符/報冤行/随縁行
無所求行/称法行/達磨禅の後継者
学問上の随縁行
第七章 禅と老荘
「易」の思想/時中/「陽」を建前とする儒教
「陰〈統一・含蓄〉」を建前とする老荘/玄徳/黄色の神秘
老荘流人間完成の九段階/老荘流の考え方
老荘流の政治家・庚桑楚
双葉山と木鷄/聖道門と浄土門/難行道と易行道
第八章 木鷄と木猫ーー禅の要諦
木鷄/男谷精一郎/木猫
道器一貫/主一無適
庖丁の話
第九章 東洋文化の本源ーー「天」の思想
「遊」の思想/「優」という字/法の意義
天の思想/玄牝/天人合一
万法帰一/人心は天心/本当の人間ほどつぶしがきく
東洋的人格論/道を忘れて器に走る/職業教育の弊害
公、卿、大夫の職責/撥乱反正/創業垂統/継体守文/因循姑息/撥乱独裁
ヒットラーとムッソリーニ/国民政治の四患「偽・私・放・奢」
生命衰退の原理/佛教・老荘・儒教の合流
第十章 末法の世の民衆佛教ーー三階級と地蔵信仰
機慧・敏慧/総持/曼陀羅/信行と三階教
地蔵信仰/地蔵の十益/常不軽菩薩行
末法の世の佛法/白蓮教/一燈照隅
第十一章 儒教の真精神ーー隋の文中子
王通〈文中子〉/名、字、諱、諡の区別
王通の父〈王伯高〉/隋の文帝/儒教の生命
至公血誠/天下を以て一民の命を易らず/房杜・姚宋
数/主に仕える難しさ/遠ざけて疎んぜず、近づけて狎れしめず
三有七無
政治家の資格/非義を卜せず
儒教の真面目/聖道門と浄土門/諸教帰一
第十二章 達磨正伝の禅風〈I〉
唐の太宗/中国の三大帝王/達磨の真骨頂
無生法忍三昧/如来と如来蔵/三十二相
即身成佛/転輪聖王
二祖慧可/万法一如、身佛無差別/三祖僧粲/四祖道信
五祖弘忍/六祖慧能/偈
慧能の偈/獅子岳快猛/曹洞宗
南頓北漸/禅の変化
第十三章 達磨正伝の禅風〈II〉
教外別伝・不立文字の真意/無相の智慧/実存即菩提
直心/瀉瓶/頭陀派と教化派
野狐禅
神秀と慧能/荷沢神会
第十四章 禅と則天武后
稀代の女傑/婦徳の典型・文徳皇后/残虐な計略
天皇・天后/狄仁傑/則天大聖皇帝
武后の淫虐/棒・喝の始まり/北宗の不運
宮廷クーデター/唐王朝の腐敗/頽廃の中の篤信
第十五章 六祖慧能の禅
六祖壇経/佛は人間〈吾〉を超越した存在ではない
無相と無念/一行三昧
第十六章 禅の真髄ーー百丈懐海
石頭希遷/頼山陽、橋本左内、幸徳秋水の例/青原行思
南岳懐譲と馬祖道一/馬祖の「喝」/平常心是道
百丈懐海/独り大雄峯に坐す/一日不作、一日不食
不落因果、不昧因果/禅修行の組織化/安禄山の乱
諸教は帰するところみな同じ
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安岡正篤(やすおか・まさひろ)
1898(明治31)年、大阪市生まれ。大阪府立四条畷中学、第一高等学校を経て、1922(大正11)年、東京帝国大学法学部政治学科卒業。東洋政治哲学・人物学を専攻。同年秋に東洋思想研究所、1927(昭和2)年に(財)金〓(けい)学院、1931(昭和6)年に日本農士学校を設立。東洋思想の研究と人物の育成に従事。戦後、1949(昭和24)年に師友会を設立。広く国民各層の啓発・教化につとめ1983(昭和58)年12月鬼籍に入る。
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