内容紹介
怪談文芸の大家としても知られた田中貢太郎が二十年の歳月を費やして集め得た、
怪異恐怖記録の集大成 第三弾、22話収録
私が最初に怪談に筆をつけたのは、大正七年であった。それは『魚の妖・蟲の怪』と云う、中央公論に載せたもので、『岩魚の怪』と『蠅供養』の二つからなっていた。
ところで、幸か不幸か、其の怪談の評判がよかったので、彼方此方から怪談を頼まれるようになって、長い間怪談ばかり書いた。それは私が支那の怪談が好きで、晉唐小説六十種、剪燈新話、聊齋志異などと云うような物を手あたりしだいに読んでいた関係から、怪談に特殊な興味を覚えていたことも原因しているのであろう……
怪談文学の第一人者ともいえる田中貢太郎が、二十年に渡って書き上げてきた作品を蒐集した「日本怪談全集」。第三巻です。残暑厳しい中も体の芯まで寒くなるような怪談は格好の作品です。涼しい秋が来る前に……
「鍛冶の母」
土佐から阿波に向かう野根山を一人の飛脚が越えていると、背に風呂敷包を背負った一人の女が、杉の根本に倒れるように坐って、苦しそうに呻いていた。女は道中産気づいて、一人困り果てていたのであった。放っておけなかった飛脚は力を貸してお産を手伝い、無事に赤子を取り上げた。と、何処からともなく犬の吠えるような声が聞えた。飛脚たちはたちまち狼の群れに囲まれた。母子を守って狼を撃退するが、五六十匹ばかりも斬ったところで、何処からともなく怪しい声がしだした。
「佐喜の浜の鍛冶の母を呼うで来い」「佐喜の浜の鍛冶の母……」……
「狐の手帳」
幕末の頃、旅商人の新三郎の家では、亭主が旅に出掛けると、女房のお滝が一人息子の新一と仲働の老婆と一緒に留守番をしていた。ある日、亭主の部屋でお滝が眠っていると、一人の見知らぬ若い男が隣に眠っていた。お滝はびっくりするとともに激しい怒りが湧いて来たので、いきなりその不届者を掴み起そうとしたが、男はたちまち姿を消した。翌晩には老婆と示し合わせて、男が現れるなり捕まえてやろうと試みるが、またしても男は現れ、また姿を消してしまう。その時、男を逃がした二人の前に新一が起きて来た。
「また来たのか、しまったなあ」……
収録内容
Disc1
黄灯
ある神主の話
Disc2
雷の死刑
文妖伝
Disc3
河獺
鍛冶の母
幽霊の自筆
Disc4
黒い蛙
萌黄色の茎
怪しき旅僧
Disc5
墓の血
Disc6
蛇の木
八人みさきの話
Disc7
狐の手帳
提灯
Disc8
妖影
鷲
Disc9
貧窮問答
藍瓶
Disc10
放生津物語
道中安全の煙管
怪談覚帳
田中貢太郎(たなか こうたろう)
田中貢太郎は日本の作家。高知県出身。号は桃葉。『田岡嶺雲・幸徳秋水・奥宮健之追懐録』が出世作となる。「中央公論」の「説苑(ぜいえん)」欄に実録,情話,怪異譚を書き、井伏鱒二・尾崎士郎らと随筆誌『博浪抄』を創刊。著作は伝記物、紀行文、随想集、情話物、怪談・奇談など多岐に渡る。代表作『旋風時代』では明治維新の顕官の情痴の生活を奔放に描いて独自の境地を開いた。1940年菊池寛賞受賞。『怪談青灯集』など怪談物も書き,『聊斎志異 (りょうさいしい) 』の翻訳もある。
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