内容紹介
児童文学の父であり、日本のアンデルセンと呼ばれる小川未明の童話「月と海豹」、「赤いガラスの宮殿」ほか全48話を朗読で収録しています。
小川未明と聞いてピントくる人は少ないのではないでしょうか?
小川未明は数多くの作品を残していることから、「日本のアンデルセン」、日本児童文学の父」と称されています。生まれは1882年(明治15年)、新潟県高田(現上越市)。坪内逍遙などから学び、後に逍遥から「未明」の号を授かります。1961年(昭和36年)、享79歳で没。没後は上越市により新人発掘のコンクール、小川未明文学賞が創設されています。
小川未明の作品は明治~昭和にかけての当時の日本の生活、子ども達の暮らしなどが物語を通して感じることができ、日本の歩みを子どもたちに教えることができます。
そして、小川未明の作品の中には戦時中の背景が描かれているものあります。今、語り継がれることの少ない戦時中の経験を物語でわかりやすく子どもたちに 伝えられます。物語の中には社会批判、人間の悪しき心が垣間見られ、善悪の判断がつかない子供たちへの正しい道筋となる作品もあります。美しい文章で語られる未明の世界をご堪能下さい。
8巻に収録
「月と海豹」
北の海に、一匹の親の海豹が、氷山のいただきにうずくまって、あたりをぼんやりと見まわしていました。
秋頃にどこかへ姿が見えなくなってしまった愛しい子どもを探して、そうやっているのでした。海豹は、目の前を通り過ぎていく冷たい風に向かって「私の可愛い子どもの姿を、見かけませんでしたか」と話しかけました。
しかし、風は見かけなかったと言います。そして、注意してみておこうと言い残すと、駆けていってしまいました。
海豹は風の便りを幾日も待ち続けましたが、便りはありませんでした。そのうち、月が「さびしいか?」と海豹に声を掛けたりしましたが、
海豹が寂しさを訴えると、月は黒い雲へ隠れてしまいました。
幾日か経ち、月がまた「さびしいか?」と声を掛けてきました。
海豹は、子どもの行方が分からなくて寂しいと伝えます。
すると月は、「おまえを楽しませるものを持ってこよう」といい、
雲の後ろに隠れてしまいました。
月が南を眺めていた時に、牧人達が太鼓を鳴らして踊っていました。
その様子をみた月は、小さな太鼓を海豹に持っていってやろうと考え、
太鼓をそっと持って、北の空へ旅をしました。
海豹に太鼓を渡すと・・・。
「田舎のお母さん」
奉公をしているおみつのところへ、田舎の母から着物が届きました。 早速着物を着てみると、田舎にいるときは、お正月になってもこんな着物をきたことがなかったので、自分の姿に見とれていました。ちょうどそこへ、坊ちゃんがきて田舎の子みたいだと笑い、おみつは急に恥ずかしくなりました。お母さんはもっとはでな着物を送ってくれなかったのだろうと行李の中へしまってしまいました。
晩になり、しみじみと田舎のことを考え、着物を取り出し、母親が着物をぬってる時のことを想像すると、あついなみだが目の中からわいてきました。
ある日、おみつはお嬢さんのおともをしてデパートへいきました。出がけにお嬢さんからそんな地味な着物しかないのかと聞かれ、おみつは顔を赤くしましたが、お母さんが送ってくださったものが恥ずかしいはずはないと自分を励ましていました。
東北地方の物産展覧会の会場に入ると、おみつの着物と同じ反物がありました。つけてある値段をみてお嬢さんは「高いのね!」と大きな声で言うと、そばにいる人たちまで陳列された反物とおみつの着物を見くらべて、この女中さんはいい着物を着ているのだなといわんばかりの顔つきをしたのです。
おみつはそれを知ると、はじめて自分がいい着物をきているのを知ってうれしかったというよりか、自分の故郷ではこんないい反物ができるということに、誇りを感じたのでした。やがて、会場からでるとお嬢さんは・・・。
収録作品
Disc1
月と海豹
少女と老兵士
少年と秋の日
海ぼたる
海の少年
Disc2
天下一品
水盤の王さま
万の死
世の中のために
Disc3
小さい針の音
美しく生まれたばかりに
真に愛するなら
お母さんはえらいな
真坊と和尚さま
Disc4
赤いガラスの宮殿
村へ帰った傷兵
春先の朝のこと
星と柱を数えたら
白いくま
Disc5
死と自由
生きた人形
不幸な親と娘
古いはさみ
ものぐさなきつね
Disc6
二百十日
娘と大きな鐘
薬売りの少年
銀のつえ
Disc7
眼鏡
草原の夢
ボールの行方
丘の下
Disc8
小ねこはなにを知ったか
すいせんと太陽
幸福のはさみ
幼き日
田舎のお母さん
Disc9
時計と窓の話
お父さんの見た人形
世の中へ出る子供たち
気にいらない鉛筆
へびになった人の話
Disc10
すずめとひわの話
ちいさな兄弟
太陽とかわず
写生に出かけた少年
雲のわくころ
老工夫と電燈
1882年4月7日-1961年5月11日
小説家・児童文学作家。本名は小川 健作(おがわ けんさく)。
「日本のアンデルセン」「日本児童文学の父」と呼ばれる。
娘の岡上鈴江も児童文学者。
新潟県高田(現上越市)に生まれる。
東京専門学校(早稲田大学の前身)専門部哲学科を経て大学部英文科を卒業。
坪内逍遙に師事し、島村抱月やラフカディオ・ハーン(小泉八雲)らにも影響を受けた。
在学中に処女作「漂浪児」を発表し、逍遥から「未明」の号を与えられ、
卒業直前に発表した「霰に霙」で小説家としての地位を築く。
1925年に早大童話会を立ち上げ、1926年以降は童話作家に専念する。
1953年、童話会の会員だった鳥越信と古田足日の二人を中心をした「少年文学宣言」
が発表され、未明は、古い児童文学として否定されるという、苦渋の晩年も送った。
代表作は、「金の輪」(労働文学)、「赤い蝋燭と人魚」(朝日新聞)
「月夜と眼鏡」(赤い鳥)、「野薔薇」(小さな草と太陽)など。
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