内容紹介
「正しくりっぱな行動をする人は、
不幸にもたえられるということを、
わたしは明らかにしたいと願っている。」
ベートーヴェン
一八一九年二月一日・ウィーン市庁にあてた手紙より
私がこの『ベートーヴェンの生涯』という本を書いたのは、今から25年前の1902年のことでした。悩み続けた慌ただしい生活が、ちょうど落ち着き始めたころです。
私は思い切ってパリから飛び出しました。そして、ベートーヴェンの思い出が残る場所をめぐる十日ほどの旅をしたのです。既にその時、ベートーヴェンはこの世にはいませんでした。
私にとってベートーヴェンは、子供の頃から心の友達でした。彼の音楽が、私をずっと支えてきてくれたのです。
その旅で、私は彼の親しい友人達にも会いました。音楽祭にも行って、彼の交響曲も聴きました。ライン川の畔では、私の心の中にいるベートーヴェンと二人きりで語り合いました。彼は私の思いや悩みを受け止めて、私を再びしっかりと立ち上がらせてくれたのです。
ベートーヴェンは、私の書いたばかりの小説『ジャン・クリストフ』を祝福してくれました。私は彼から大きな生きる力をもらって「感謝の歌」を歌いながらパリへと帰りました。その「感謝の歌」こそ、この本『ベートーヴェンの生涯』なのです。
私はベートーヴェンの音楽の研究のために、この本を書いたのでありません。この本は傷ついた魂から生まれた歌です。息が詰まったかのように苦しんでいた魂が再び息をして、立ち上がり、救ってくれた者に捧げる感謝の歌なのです。この本は、私からベートーヴェンへの感謝の思いと愛の証でした。
〜序章より〜
目次
序章 〜 二十五年後の、この本の作者ロマン・ロランからの言葉〜
第1章
第2章
第3章
第4章
第5章
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