内容紹介
樋口一葉日記 その二〈明治24〜25年〉
十五歳から死に到る二十四歳まで膨大な日記を書き残した樋口一葉――
一葉文学の本質が随所にみられるこの日記は、一葉作品における最高傑作ともいわれている
〈その二〉
小説を書き始めるようになった一葉の十九歳から二十歳になるころまでの「筆すさび 一」から「森のした草 一」まで。図書館通いや読書などにいそしみがら小説を書くようになったものの、貧しい暮らしの中で小説を書くことの苦悩が日記の中に散見される。萩の舎の友人たちと交わりながら学びを深め、日常の自然や花鳥風月を愛でる感性が豊かに表現されている。師の半井桃水とは一時距離を置いたが再び会うようになり、一葉の微妙な恋心が日記から読み取れる。
樋口一葉作品HP→https://ohimikazako.wix.com/kotonoha/blank-20
【収録内容】
※樋口一葉の日記は膨大なため、抜粋して収録しております。各日記の*収録箇所に、このオーディオブックに収録されている一葉日記の箇所(日付)を明記しています。なお、樋口一葉の年齢は数え年ではなく満年齢で記しています。
01筆すさび 一〈明治24年6〜9月〉19歳
*収録箇所[明確な日付不明 6月末、8月、9月7日ごろ]
日々の思いや出来事が随筆的に綴られている。内向的な性格ゆえ、周囲から「ものつつみの君」と呼ばれたことや、母から恥ずかしくない職業につくよう言われたことなどが書かれている。貧しい暮らしで借金をするも、そのお金をすぐに困っている人に貸してしまう母を肯定する一葉の姿が記され、一葉の人となりがうかがえる。また、歌塾・萩の舎(はぎのや)の友人に対する人物評が一人ずつ細かく書かれていることも注目に値する。「心ぐるしきもの」と題して、そのことを言及するなど『枕草子』のような筆致もみられる。
02蓬生日記一〈明治24年9〜11月〉19歳
*収録箇所[9月15〜19、22、23、26日、10月2、4、7、10、12、13、17、18、22、24〜27、29〜31日、11月2、4、8、10日]
日々の暮らしぶり(灸の治療、図書館通い、仕立物をする、萩の舎での出来事、師や友人を訪ねる 等)が綿々と綴られている。
9月22日には勉強がうまくいかぬことや母や妹の身を案ずる戸主としての嘆きが吐露されている。9月26日、妹・邦子から小説の師・半井桃水(なからい・とうすい)の不品行な噂を聞かされる。10月4日、邦子と摩利支天に参詣する。芸者などを呼んで遊興をする「待合(まちあい)」についての批判が述べられている。10月7日、小説がうまく書けず、歌の師・中島歌子に一度見てもらったことが言及されている。10月10日、兄・虎之助が金銭の困窮に陥っていることを知り、母と相談しつつ、なんとかお金を工面する様子がみられる。
10月18日に友人から半井桃水が一葉のことを気にかけていたと聞き、22日、数か月ぶりに桃水を訪ねようと決意する。25日に半井桃水宅へ出向くが桃水の妹が嫁入り前で取り込んでいたためそのまま帰宅する。30日、半井桃水のいわれるままに隠れ家を訪ね、しばらく距離を置いていた桃水と二人きりでいろいろな話をする中に、一葉の恋心や葛藤が垣間見られる。
11月、日常生活の中で小説を書こうとする一葉の姿やその心持ちが綴られている。
03よもぎふ日記 二〈明治24年11月〉19歳
*収録箇所[11月22、23、24日]
11月24日に半井桃水の隠れ家を訪ねたときのことが詳しく書かれている。話は小説の指導から恋愛論へと発展する。一葉は桃水のことを「師の君とも、兄君とも思ふ」と述べているが微妙な女心がうかがえる。しばしの沈黙のあと、桃水が「我が身こそ幸なきものなれ」と言ったところで、この日記は突然終わっている。
04 無題〈明治24年12月〉19歳
*収録箇所[12月21〜25日]
12月21日の前半は散佚しているため、途中からの文章となっている。半井桃水を訪ねたときの断片と思われる。12月25日の「半井うし約束の金持参し給ふべき約なれば」から、一葉は桃水に生活の窮状を打ち明けており、桃水は金銭的援助を承諾したことがうかがえる。この日記は「庭前の梅一輪」までで、以降は散佚している。
05森のした草 一〈明治24、25年ごろ〉19〜20歳
*収録箇所[日付不明 たれの詠なりけん〜、わかき女の〜、とし頃の友だちの〜、万にほめらるるは〜、悪筆成りとて〜、小説のことに〜]
日付は記されておらず、随筆風にさまざまなことが書き綴られている。一葉のものの考え方が如実にあらわれている。とくに「小説のことに〜」では、小説を書き始めてから一年近く経った現状とその心境を書きとめており、一葉がこころざす小説への並々ならぬ思いが記されている。
作者:樋口一葉(ひぐち・いちよう
1872年(明治5年)〜1896年(明治29年)。小説家。東京生まれ。本名、樋口奈津。
父や兄を早くに亡くし、女戸主として生活に苦しみながらも筆一本で生計をたてようと志し、24年という短い生涯の中で、小説22作品と多大な日記、随筆などを書き残す。
歌塾「萩の舎(はぎのや)」で中島歌子に和歌や古典文学を学び、朝日新聞の小説記者である半井桃水(なからい・とうすい)に小説の指導を受ける。一時、生活苦のため小説をあきらめ雑貨店を営むが、のちにその経験を活かし「たけくらべ」「にごりえ」「十三夜」などの秀作を次々に発表し、文壇から絶賛される。しかし、その絶頂期に肺結核のため、24歳で夭逝する。一葉の死後、妹の邦子(くに・国子)が残された草稿や日記を保存・整理し、その出版に尽力した。
朗読:岡崎弥保(おかざき・みほ)
俳優・語り手。
東京女子大学卒業、同大学院修了(日本古典文学専攻)。言葉の力に魅せられ、編集者を経て、俳優・語り手に。演劇・語りの舞台に数多く出演。2010年朗読コンクール優勝(NPO日本朗読文化協会主催)。藍生俳句会・いぶき俳句会 会員。『源氏物語』全五十四帖(与謝野晶子訳)、「平家物語」全十三巻をはじめ、「おくのほそ道」「にほんむかしばなし」「小泉八雲怪談集」「ひろしまのピカ」「夏の花」等、朗読CD・オーディオブックの収録多数。
●公式サイト「言の葉」 http://ohimikazako.wix.com/kotonoha/
●ブログ「言の葉つむぎ」 https://ameblo.jp/ohimikazako
●声のブログ「耳で聞く俳句《一日一句》 https://ameblo.jp/kotonoha-haiku
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