内容紹介
その男には、無数の名があった。
速水壮吉、綿貫清二、鮎川賢一郎、殿村啓介、宮野禄朗、或いは、或いは……。
そのうちの一つの名、佐川春泥は人気の小説家でさえあった。
いくつもの名前を使い分けるその男は、人間の裏側を探求することに耽溺していた。
これと目ざした個々の人間の、秘密の生活を探求することが、彼の生甲斐だった。
そしてこの探求の副産物として、裕福な人間の裏側を見たときには、
それを武器として相手から多額の金銭をゆすり取っていた。
犯罪小説家・佐川春泥の作品の資料も、「裏返しの人間探求」によるものだ。
彼は念入りな隠身術を用いて、決して正体を悟られないよう用心していた。
顔面扮装術にも秀で、場合によっては七十歳の老人にも、二十代の美女にも化けた。
彼のほんとうの素顔は、誰も知らない。
この怪人物は、様々な名前で、様々な世界に触れる。
アル中の元大尉の家庭に救いの手を差し伸べた。
上流婦人の秘密クラブに潜り込んだ。
殺人請負会社に勧誘され、顧問となった。
秘密の地底王国で、この世ならざる体験をした。
戦後成金の夫人失踪事件にちょっかいを出した。
そしてこの男はついに、名探偵・明智小五郎と邂逅することにもなる。
影に紛れ、この世の裏側を探求する「影男」。
彼の見る世界、そして迎える結末とは?
乱歩の好む幻想が詰め込まれた長編小説の一作。
江戸川乱歩(えどがわ・らんぽ)
日本の推理小説家。1894年10月21日生まれ、三重県生まれ。筆名は、19世紀の米国の小説家エドガー・アラン・ポーに由来する。数々の職業遍歴を経て作家デビューを果たす。本格的な推理小説と並行して『怪人二十面相』、『少年探偵団』などの少年向けの推理小説なども多数手がける。代表作は『人間椅子』、『黒蜥蜴』、『陰獣』など。1954年には乱歩の寄付を基金として、後進の推理小説作家育成のための「江戸川乱歩賞」が創設された。
|
関連商品
[オーディオブック] 夢遊病者の死 [著]江戸川乱歩 500円+税
[オーディオブック] 疑惑 [著]江戸川乱歩 500円+税
[オーディオブック] 鏡地獄 [著]江戸川乱歩 500円+税
[オーディオブック] 人間椅子 [著]江戸川乱歩 500円+税
[オーディオブック] 黒蜥蜴 [著]江戸川乱歩 1,000円+税
|