内容紹介
野崎三郎は風変わりな洋画家である。
彼は女性の体のあらゆる部分に容貌以上の美を見出すことが出来た。
だが、彼のこだわりは世間並み以上に、むしろ病的に発達してしまっており、絵のモデルとなる女たちとも、一線を超えるとすぐに関係を終えてしまうのが常だった。
彼の眼鏡にかなうほどの美の持ち主に、出会わなかったからである。
そんな彼が出会った理想の恋人が踊り子のお蝶であった。
彼女に理想の美を見出した三郎は、彼女をモデルに絵筆を執ることも忘れて、ひたすら彼女の愛を得ることに努めた。
お蝶もまた、三郎の想いを受け入れて、その関係はかつてないほどに長く続いたのだ。お蝶が信濃の山中ではかない変死を遂げるまでは……
ある時三郎は、お蝶を連れて、二人で長野県S温泉の籾山ホテルに赴いた。
「どこか山の中でも入って、あんたとたった二人っきりで暮らしてみたくなった」
お蝶のその言葉を面白がって、三郎は旅行を計画したのである。
だが、その旅先でお蝶は、三郎と隠れん坊遊びをしている最中に姿を消してしまうのだった……
江戸川乱歩(えどがわ・らんぽ)
日本の推理小説家。1894年10月21日生まれ、三重県生まれ。筆名は、19世紀の米国の小説家エドガー・アラン・ポーに由来する。数々の職業遍歴を経て作家デビューを果たす。本格的な推理小説と並行して『怪人二十面相』、『少年探偵団』などの少年向けの推理小説なども多数手がける。代表作は『人間椅子』、『黒蜥蜴』、『陰獣』など。1954年には乱歩の寄付を基金として、後進の推理小説作家育成のための「江戸川乱歩賞」が創設された。
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