内容紹介
漢字一つ一つが持つ個性的な形と意味、それらの組み合わせからさまざまにひろがってゆく境地が幻想的でもあり、夢のようでもある「ファンタスティック」な漢詩。
時代背景や作者の境遇を交えた色彩豊かな漢詩の魅力に溢れる講義です。
このシリーズは日本の漢詩について、さまざまの立場で歴史の舞台に登場した人々にスポットをあて、その作品と人生を解説する、という方式で進めてまいります。
日本人の伝統詩歌としては、漢詩・短歌・俳句があげられるでしょう。この三形式のなかでは、親しまれた期間の長さにおいても、創作の歴史の長さにおいても、漢詩が抜きんでています。何しろ日本人は既に飛鳥時代、つまり七世紀後半ごろから、漢詩を「読む」だけではなく、「自分で作る」という段階に入っていました。以来、今日まで千三百年以上にわたり、漢詩は日本人の心を表す形式として親しまれているのです。
漢詩に表れた日本人の心、その特質は何かと言えば、それは「公と正義の感覚」ということになります。花鳥風月や、男女の心の機微は、漢詩では最も重要な関心事にはなりません。そうではなく、社会がどうあるべきか、それを目指す中で個人はどうふるまうべきかを模索し、その考察の結果やそれに伴うさまざまの感慨を表現する、それが漢詩の本道です。
このシリーズによって、そのような漢詩の魅力と奥深さを少しでもお伝えすることができれば幸いです。
第十回 この道ひとすじに――広瀬淡窓
広瀬淡窓(1728~1856)は江戸時代後期の儒者で、大教育家でした。豊後(ぶんご=大分県)日田(ひた)の人。家は諸藩御用達(ごようたし)の商家でしたが、読書・学問の気風に富んでいました。古文辞派の亀井南冥・昭陽父子に学び、20代半ばから家塾を開設、この塾が発展して咸宜園(かんぎえん)となります。
病弱のため、郷里にとどまって教育に専念し、教歴50年、門生は全国から4600人以上が集まりました。高野長英、大村益次郎、田口藍田や、維新の学生起草に参与した長三洲(ちょうさんしゅう)など、多くの人材を輩出しています。生徒の個性の伸長と社会性の養成を重んじる履修課程や成績評価の方法は広く注目され、〈出題 → 答案提出 → 採点〉という試験法は淡窓に始まったとされています。また当時の学者・文人も多く彼のもとを訪れ、頼山陽(らいさんよう)、梁川星巖(やながわせいがん)、田能村竹田(たのむらちくでん)など、その交遊は多彩なものでした。
収録作品
桂林荘雑詠 示諸生四首 其二
桂林荘雑詠 示諸生四首 其三
桂林荘雑詠 示諸生四首 其四
隅川雑詠五首 其二
詠保命酒
唐津
七十 自賀
特典ダウンロード
ご購入のお客様への特典として、
各回の収録作品を掲載した「知っておきたい 日本の漢詩」ミニテキスト(PDFデータ)
が付属しています。
※商品版の音声と一緒にダウンロードいただけます。
講師:宇野直人(うの・なおと)
昭和二十九年、東京生まれ。早稲田大学大学院文学研究科博士課程修了、文学博士。現在、共立女子大学国際学部教授。著書に『中国古典詩歌の手法と言語』(研文出版)『漢詩の歴史』(東方出版)『漢詩の事典』(共著、大修館書店)など。平成十九年、NHKラジオ「古典講読――漢詩」講師、平成二十年より同「漢詩をよむ」講師。
|