内容紹介
漢字一つ一つが持つ個性的な形と意味、それらの組み合わせからさまざまにひろがってゆく境地が幻想的でもあり、夢のようでもある「ファンタスティック」な漢詩。
時代背景や作者の境遇を交えた色彩豊かな漢詩の魅力に溢れる講義です。
このシリーズは日本の漢詩について、さまざまの立場で歴史の舞台に登場した人々にスポットをあて、その作品と人生を解説する、という方式で進めてまいります。
日本人の伝統詩歌としては、漢詩・短歌・俳句があげられるでしょう。この三形式のなかでは、親しまれた期間の長さにおいても、創作の歴史の長さにおいても、漢詩が抜きんでています。何しろ日本人は既に飛鳥時代、つまり七世紀後半ごろから、漢詩を「読む」だけではなく、「自分で作る」という段階に入っていました。以来、今日まで千三百年以上にわたり、漢詩は日本人の心を表す形式として親しまれているのです。
漢詩に表れた日本人の心、その特質は何かと言えば、それは「公と正義の感覚」ということになります。花鳥風月や、男女の心の機微は、漢詩では最も重要な関心事にはなりません。そうではなく、社会がどうあるべきか、それを目指す中で個人はどうふるまうべきかを模索し、その考察の結果やそれに伴うさまざまの感慨を表現する、それが漢詩の本道です。
このシリーズによって、そのような漢詩の魅力と奥深さを少しでもお伝えすることができれば幸いです。
第八回 涙の手まり唄――良寛
良寛和尚は越後(新潟県)出雲崎(いづもざき)の生まれ。家は代々名主(なぬし)を勤めていましたが、彼自身は十八歳のころ出家し、四十代後半に出雲崎の東北にある国上山(くがみやま)に隠居、以後は文化人たちと交流し、農民や子供たちと親しく過ごしました。漢詩のほか、和歌や書に秀でていました。七十歳のとき、貞心尼(ていしんに)という二十九歳の尼僧と出会って親交を深め、貞心尼の残した『蓮(はちす)の露』は両人の和歌を多く収めるとともに、良寛の貴重な伝記資料となっています。
良寛の詩は、禅僧としての心境を示したもの、反対に世俗的な悩みを告白したもの、農村の生活をたたえるものなどに分類できます。そしてそれら全体から感じられるのは、深い悲しみ――人間の身勝手さや、越後の人々の境遇、また自分自身の不如意な人生に対する、深い悲しみの情なのです。
収録作品
冬夜長し三首 其の三
阿部氏の宅 即時
雑詩 其二十七
雑詩 其七十九
雑詩 其二十五
特典ダウンロード
ご購入のお客様への特典として、
各回の収録作品を掲載した「知っておきたい 日本の漢詩」ミニテキスト(PDFデータ)
が付属しています。
※商品版の音声と一緒にダウンロードいただけます。
講師:宇野直人(うの・なおと)
昭和二十九年、東京生まれ。早稲田大学大学院文学研究科博士課程修了、文学博士。現在、共立女子大学国際学部教授。著書に『中国古典詩歌の手法と言語』(研文出版)『漢詩の歴史』(東方出版)『漢詩の事典』(共著、大修館書店)など。平成十九年、NHKラジオ「古典講読――漢詩」講師、平成二十年より同「漢詩をよむ」講師。
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