内容紹介
漢字一つ一つが持つ個性的な形と意味、それらの組み合わせからさまざまにひろがってゆく境地が幻想的でもあり、夢のようでもある「ファンタスティック」な漢詩。
時代背景や作者の境遇を交えた色彩豊かな漢詩の魅力に溢れる講義です。
このシリーズは日本の漢詩について、さまざまの立場で歴史の舞台に登場した人々にスポットをあて、その作品と人生を解説する、という方式で進めてまいります。
日本人の伝統詩歌としては、漢詩・短歌・俳句があげられるでしょう。この三形式のなかでは、親しまれた期間の長さにおいても、創作の歴史の長さにおいても、漢詩が抜きんでています。何しろ日本人は既に飛鳥時代、つまり七世紀後半ごろから、漢詩を「読む」だけではなく、「自分で作る」という段階に入っていました。以来、今日まで千三百年以上にわたり、漢詩は日本人の心を表す形式として親しまれているのです。
漢詩に表れた日本人の心、その特質は何かと言えば、それは「公と正義の感覚」ということになります。花鳥風月や、男女の心の機微は、漢詩では最も重要な関心事にはなりません。そうではなく、社会がどうあるべきか、それを目指す中で個人はどうふるまうべきかを模索し、その考察の結果やそれに伴うさまざまの感慨を表現する、それが漢詩の本道です。
このシリーズによって、そのような漢詩の魅力と奥深さを少しでもお伝えすることができれば幸いです。
第七回 やがて かなしき――狂詩の世界
江戸時代の中ごろから町人文化が興隆すると、町人層の好みが文学の領域に流れこみ、雑俳・川柳・狂歌・洒落本(しゃれぼん)などの滑稽文学が盛んになりました。この風潮は漢詩にも及び、とぼけ・おかしみの要素を備えた「狂詩」が流行することになります。
狂詩は漢詩の一種の発展形で、俗な言い回しを使ったり、和語の漢字表記を交えたりしながら、身近なことがらを面白く表現しています。ここではまず‟東の寝惚(ねぼけ)、西の銅脈”と言われた寝惚先生(大田南畝=おおたなんぽ)と銅脈先生(畠中観斎=はたなかかんさい)の作品を見、つづいて「節倹」「質実」を旨とする寛政の改革後、いくぶん真面目な詠みぶりになった狂詩の例として、方外道人の『江戸名物詩』のなかから二首を見ます。それらは江戸の老舗(しにせ)や有名店を狂詩の形で詠んだもので、詩による名店案内、という趣になっているのです。
収録作品
貧鈍行
深川詞
述懐
河東夜行
翁屋煮染
長命寺桜餅
特典ダウンロード
ご購入のお客様への特典として、
各回の収録作品を掲載した「知っておきたい 日本の漢詩」ミニテキスト(PDFデータ)
が付属しています。
※商品版の音声と一緒にダウンロードいただけます。
講師:宇野直人(うの・なおと)
昭和二十九年、東京生まれ。早稲田大学大学院文学研究科博士課程修了、文学博士。現在、共立女子大学国際学部教授。著書に『中国古典詩歌の手法と言語』(研文出版)『漢詩の歴史』(東方出版)『漢詩の事典』(共著、大修館書店)など。平成十九年、NHKラジオ「古典講読――漢詩」講師、平成二十年より同「漢詩をよむ」講師。
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