内容紹介
漢字一つ一つが持つ個性的な形と意味、それらの組み合わせからさまざまにひろがってゆく境地が幻想的でもあり、夢のようでもある「ファンタスティック」な漢詩。
時代背景や作者の境遇を交えた色彩豊かな漢詩の魅力に溢れる講義です。
このシリーズは日本の漢詩について、さまざまの立場で歴史の舞台に登場した人々にスポットをあて、その作品と人生を解説する、という方式で進めてまいります。
日本人の伝統詩歌としては、漢詩・短歌・俳句があげられるでしょう。この三形式のなかでは、親しまれた期間の長さにおいても、創作の歴史の長さにおいても、漢詩が抜きんでています。何しろ日本人は既に飛鳥時代、つまり七世紀後半ごろから、漢詩を「読む」だけではなく、「自分で作る」という段階に入っていました。以来、今日まで千三百年以上にわたり、漢詩は日本人の心を表す形式として親しまれているのです。
漢詩に表れた日本人の心、その特質は何かと言えば、それは「公と正義の感覚」ということになります。花鳥風月や、男女の心の機微は、漢詩では最も重要な関心事にはなりません。そうではなく、社会がどうあるべきか、それを目指す中で個人はどうふるまうべきかを模索し、その考察の結果やそれに伴うさまざまの感慨を表現する、それが漢詩の本道です。
このシリーズによって、そのような漢詩の魅力と奥深さを少しでもお伝えすることができれば幸いです。
第二回 五山の詩魂――富士山を詠む
平安時代に、漢詩は日本独自の思想・感情を表す文学形式として定着しました。続く鎌倉時代には禅宗の僧侶が武家の信頼を得て活動し、仏道修業にいそしむとともに、当時の中国(宋王朝・元王朝)の学問・芸術を修め、漢詩の創作や漢籍の研究も行いました。彼らの活動は京都・鎌倉の五大寺を中心としたことから、その業績を「五山文学」と呼びます。
今回は五山の漢詩の特色を具体的に探るため、特に富士山を主題とした詩を取り上げて観察します。富士山を詩に詠むことは江戸時代に大流行し、名作もたくさん現れました。そこでまず、江戸時代の富士山の絶句・律詩を一首ずつ読んで富士山詠の完成形を把握し、ついで五山僧の絶句・律詩をいろいろ挙げ、五山の詩風の特色をさぐります。
さらに、杜甫の五言律詩「岳を望む」との比較を通し、日中の漢詩創作の姿勢の違いにも触れます。
収録作品
富士山 石原丈山
富士山を詠ず 柴野栗山
富士山 中厳円月
富嶽を望む二首 亀田鵬斎
富士山の五絶 其の五
韻に次して富士山を賦し 祖東伝に寄せて「荷葉覆」の句に答ふ 義堂周信
岳を望む 杜甫
特典ダウンロード
ご購入のお客様への特典として、
各回の収録作品を掲載した「知っておきたい 日本の漢詩」ミニテキスト(PDFデータ)
が付属しています。
※商品版の音声と一緒にダウンロードいただけます。
講師:宇野直人(うの・なおと)
昭和二十九年、東京生まれ。早稲田大学大学院文学研究科博士課程修了、文学博士。現在、共立女子大学国際学部教授。著書に『中国古典詩歌の手法と言語』(研文出版)『漢詩の歴史』(東方出版)『漢詩の事典』(共著、大修館書店)など。平成十九年、NHKラジオ「古典講読――漢詩」講師、平成二十年より同「漢詩をよむ」講師。
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