内容紹介
漢字一つ一つが持つ個性的な形と意味、それらの組み合わせからさまざまにひろがってゆく境地が幻想的でもあり、夢のようでもある「ファンタスティック」な漢詩。
時代背景や作者の境遇を交えた色彩豊かな漢詩の魅力に溢れる講義です。
このシリーズは日本の漢詩について、さまざまの立場で歴史の舞台に登場した人々にスポットをあて、その作品と人生を解説する、という方式で進めてまいります。
日本人の伝統詩歌としては、漢詩・短歌・俳句があげられるでしょう。この三形式のなかでは、親しまれた期間の長さにおいても、創作の歴史の長さにおいても、漢詩が抜きんでています。何しろ日本人は既に飛鳥時代、つまり七世紀後半ごろから、漢詩を「読む」だけではなく、「自分で作る」という段階に入っていました。以来、今日まで千三百年以上にわたり、漢詩は日本人の心を表す形式として親しまれているのです。
漢詩に表れた日本人の心、その特質は何かと言えば、それは「公と正義の感覚」ということになります。花鳥風月や、男女の心の機微は、漢詩では最も重要な関心事にはなりません。そうではなく、社会がどうあるべきか、それを目指す中で個人はどうふるまうべきかを模索し、その考察の結果やそれに伴うさまざまの感慨を表現する、それが漢詩の本道です。
このシリーズによって、そのような漢詩の魅力と奥深さを少しでもお伝えすることができれば幸いです。
第一回 儒臣の本懐――菅原道真
菅原道真(すがわらのみちざね=845〜903)は、平安時代前期の官僚・学者。江戸時代以前において随一の詩人でもありました。学界出身の大臣として異例の昇進をとげましたが、讒言(ざんげん)によって福岡の太宰府に左遷され、その地で亡くなりました。ところがその後、道真左遷の関係者が相次いで変死をとげ、また疫病・旱(ひでり)・落雷など、天変地異が20年以上も続きます。それらは道真の怨霊(おんりょう)のたたりとして恐れられ、ついに醍醐天皇が心労のため崩ずるに至りました。これらのことから、道真はやがて天満宮天神としてまつられ、天神信仰・雷神信仰と習合して多くの説話を生みました。今日でも全国にまつられ、学問の神・書道の神として信仰を集めています。
今回はその生涯に沿って、「雪中の早衙(そうが)」、「寒早十首」其の九、「旅亭の歳日 客を招いて同(とも)に飲(いん)す」、「家書を読む」、「謫居(たくきょ)の春雪」を取り上げます。
収録作品
雪中の早衙
寒早十首 其の九
旅亭の歳日 客を招いて同(とも)に飲(いん)す
家書を読む
謫居(たくきょ)の春雪
特典ダウンロード
ご購入のお客様への特典として、
各回の収録作品を掲載した「知っておきたい 日本の漢詩」ミニテキスト(PDFデータ)
が付属してます。
※商品版の音声と一緒にダウンロードいただけます。
講師:宇野直人(うの・なおと)
昭和二十九年、東京生まれ。早稲田大学大学院文学研究科博士課程修了、文学博士。現在、共立女子大学国際学部教授。著書に『中国古典詩歌の手法と言語』(研文出版)『漢詩の歴史』(東方出版)『漢詩の事典』(共著、大修館書店)など。平成十九年、NHKラジオ「古典講読――漢詩」講師、平成二十年より同「漢詩をよむ」講師。
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