内容紹介
五十歳の格二郎はいまだに好きで始めたラッパが手放せず、安月給で木馬館のラッパ吹きを続けていた。
朝から晩まで五分ごとに監督さんの合図の笛に合わせて、廻転木馬の真ん中の段上で彼の自慢のラッパを吹き鳴らすのだ。
皆が笑い、声を上げる廻転木馬の中心でラッパを吹いている間、格二郎は世知辛い現実を忘れられた。
この世は楽しい木馬の世界だ。そうして今日も暮れるのだ……
そんな格二郎にとって、切符切りの娘・お冬の存在は仕事の中での癒しであった。
十八歳のお冬とは親子ほども年が離れている上に、自分には女房子供もいる。
それでも彼女と言葉を交わせば心躍るものがあり、ときめきを感じるのだ。
家が同じ方向ということもあり、格二郎はよくお冬と一緒に帰り道を歩く。
ある時、お冬はショーウィンドウに飾られた流行りのショールを見て溜め息をついた。格二郎はプレゼントしたいが、一番安いものなのに買ってやれる金額ではなかった。
格二郎はやるせない気持ちを毎日ラッパにぶつけて吹き鳴らしていた。
ところがある日、思わぬことから格二郎は大金を手にするのだが……
江戸川乱歩(えどがわ・らんぽ)
日本の推理小説家。1894年10月21日生まれ、三重県生まれ。筆名は、19世紀の米国の小説家エドガー・アラン・ポーに由来する。数々の職業遍歴を経て作家デビューを果たす。本格的な推理小説と並行して『怪人二十面相』、『少年探偵団』などの少年向けの推理小説なども多数手がける。代表作は『人間椅子』、『黒蜥蜴』、『陰獣』など。1954年には乱歩の寄付を基金として、後進の推理小説作家育成のための「江戸川乱歩賞」が創設された。
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