内容紹介
漢字一つ一つが持つ個性的な形と意味、それらの組み合わせからさまざまにひろがってゆく境地が幻想的でもあり、夢のようでもある「ファンタスティック」な漢詩。
時代背景や作者の境遇を交えた色彩豊かな漢詩の魅力に溢れる講義です。
漢詩は和歌や俳句とともに、永く日本人に親しまれて来た文学形式ですが、漢字ばかりで作られるため、気おくれしてしまう人もおられるようです。
が、そのいかめしい外見から一歩中に入ってみると、まことに多彩で魅力ある世界が現れて来ます。
それは或る種の果物に似ています。西瓜(スイカ)の、あの固い緑色の外皮の中には赤くジューシーな果肉が、また荔枝(ライチ)の、あの固いトゲだらけの、茶色の外皮の中には、丸くて白く、甘い果肉が包まれています。
このシリーズは、漢詩のそのような果実をなるべくわかりやすくお伝えするもので、名作の数々を、時代背景や作者の境遇と合わせてお話ししてゆきます。
漢字一つ一つが持つ個性的な形と意味、それらの組み合わせからさまざまにひろがってゆく境地は、まさしくファンタステイック!と言えるでしょう。
〈第十九回 古跡めぐりと隣人愛と〉
夔州付近には史跡が多く、杜甫はしばしばそれらを訪ねて詩を作りました。七言律詩「詠懐古跡五首」もその一例で、大暦元年(766)、55歳の秋の作とされています。ここでは、そのうち二首を取り上げます。「其の二」は、戦国時代の楚の宮廷文人・宋玉の旧宅を訪ねて宋玉への深い敬愛の思いを詠み、「其の三」は、前漢時代の宮女・王昭君の郷里の村を訪れて、昭君の生涯へのいたわしさの思いを詠んでいます。
翌・大暦2年(767)秋の七言律詩「又 呉郎に呈す」は、親戚の呉郎に対し、"棗泥棒の老女に寛大にするよう”やんわりと忠告した作。杜甫の人情深い側面がよく出ています。同時期の七言律詩「登高」は、九月九日、重陽の節句に丘に登り、心境を吐露したもの。前半四句は風景描写ですが、単なる描写を超えた荘厳な大自然の鳴動を感じさせます。後半四句は心境告白となり、苦労の多かった人生を思い起こし、今の状況を嘆いています。
収録作品
詠懐古跡(古跡を詠懐す) 五首 其二 七言古詩
詠懐古跡(古跡を詠懐す) 五首 其三
又呈呉郎(又 呉郎に呈す)七言律詩
登高(とうこう) 七言律詩
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※商品版の音声と一緒にダウンロードいただけます。
講師:宇野直人(うの・なおと)
昭和二十九年、東京生まれ。早稲田大学大学院文学研究科博士課程修了、文学博士。現在、共立女子大学国際学部教授。著書に『中国古典詩歌の手法と言語』(研文出版)『漢詩の歴史』(東方出版)『漢詩の事典』(共著、大修館書店)など。平成十九年、NHKラジオ「古典講読――漢詩」講師、平成二十年より同「漢詩をよむ」講師。
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