内容紹介
漢字一つ一つが持つ個性的な形と意味、それらの組み合わせからさまざまにひろがってゆく境地が幻想的でもあり、夢のようでもある「ファンタスティック」な漢詩。
時代背景や作者の境遇を交えた色彩豊かな漢詩の魅力に溢れる講義です。
漢詩は和歌や俳句とともに、永く日本人に親しまれて来た文学形式ですが、漢字ばかりで作られるため、気おくれしてしまう人もおられるようです。
が、そのいかめしい外見から一歩中に入ってみると、まことに多彩で魅力ある世界が現れて来ます。
それは或る種の果物に似ています。西瓜(スイカ)の、あの固い緑色の外皮の中には赤くジューシーな果肉が、また荔枝(ライチ)の、あの固いトゲだらけの、茶色の外皮の中には、丸くて白く、甘い果肉が包まれています。
このシリーズは、漢詩のそのような果実をなるべくわかりやすくお伝えするもので、名作の数々を、時代背景や作者の境遇と合わせてお話ししてゆきます。
漢字一つ一つが持つ個性的な形と意味、それらの組み合わせからさまざまにひろがってゆく境地は、まさしくファンタステイック!と言えるでしょう。
〈第十八回 夔州の民心と風土〉
大暦元年(766)の春、杜甫一家は夔州(きしゅう=重慶市奉節県)に到着しました。そこは山あいの町で、三峡の一つ、瞿唐峡(くとうきょう)のすぐ西北にあります。一家は大暦3年春まで二年間、ここで生活しました。杜甫はその間、付近の名勝をたずね、山水をめで、430首もの詩を作っています。
その一方で彼は、この地特有の風俗習慣もよく観察し、詩に書きとめました。七言古詩「負薪行(ふしんこう)」は、力仕事に追われてやつれたまま老いてゆく女たちの境遇を、同じく「最能行」は、頑固だが並外れた技量を誇る船乗りたちの姿を、それぞれ活写しています。
また七言律詩「秋興八首」其の一は、夔州の秋の夕暮れのさびしさとともに、僻遠の地にあってなおも首都長安の将来を案じる心を詠んでいます。注目すべきは第3,4句の風景描写で、独特の壮大で崇高な雰囲気を帯び、彼が円熟の境地に入ったことを実感させるのです。
収録作品
負薪行 七言古詩
最能行 七言古詩
秋興(しゅうきょう)八首 七言律詩
特典ダウンロード
ご購入のお客様への特典として、
各回の収録作品を掲載した「ファンタスティック!漢詩ワールド」ミニテキスト(PDFデータ)
をプレゼントいたします。
※商品版の音声と一緒にダウンロードいただけます。
講師:宇野直人(うの・なおと)
昭和二十九年、東京生まれ。早稲田大学大学院文学研究科博士課程修了、文学博士。現在、共立女子大学国際学部教授。著書に『中国古典詩歌の手法と言語』(研文出版)『漢詩の歴史』(東方出版)『漢詩の事典』(共著、大修館書店)など。平成十九年、NHKラジオ「古典講読――漢詩」講師、平成二十年より同「漢詩をよむ」講師。
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