内容紹介
漢字一つ一つが持つ個性的な形と意味、それらの組み合わせからさまざまにひろがってゆく境地が幻想的でもあり、夢のようでもある「ファンタスティック」な漢詩。
時代背景や作者の境遇を交えた色彩豊かな漢詩の魅力に溢れる講義です。
漢詩は和歌や俳句とともに、永く日本人に親しまれて来た文学形式ですが、漢字ばかりで作られるため、気おくれしてしまう人もおられるようです。
が、そのいかめしい外見から一歩中に入ってみると、まことに多彩で魅力ある世界が現れて来ます。
それは或る種の果物に似ています。西瓜(スイカ)の、あの固い緑色の外皮の中には赤くジューシーな果肉が、また荔枝(ライチ)の、あの固いトゲだらけの、茶色の外皮の中には、丸くて白く、甘い果肉が包まれています。
このシリーズは、漢詩のそのような果実をなるべくわかりやすくお伝えするもので、名作の数々を、時代背景や作者の境遇と合わせてお話ししてゆきます。
漢字一つ一つが持つ個性的な形と意味、それらの組み合わせからさまざまにひろがってゆく境地は、まさしくファンタステイック!と言えるでしょう。
〈第十一回 小さき者たちへ〉
旱魃(かんばつ)や叛軍の横行による生活苦の中、少しでも生活環境を改善すべく、杜甫はみずから官職を辞し、家族とともに、戦火の及ばない、また知己の多い、西方の秦州(甘粛省)に転居しました。ところがこの町は半ば外国であり、自然環境も住民の生活習慣もなじみにくく、住みにくい町でした。そのため杜甫一家はわずか三ヶ月後に、南西の同谷に移ってゆきます。
しかし杜甫自身の創作意欲はこの時期にかつてない高揚を示し、三ヶ月という短いあいだに88首もの詩が作られました。
今回はその中から五言律詩「秦州雑詩二十首」其の四、同「促織(そくしょく)」、同「蛍火(けいか)」の三首を見ます。この時期には五言律詩が多いこと、小動物に注目したものが多いことが目立ちます。後者は自分自身の、ひいては人間というものの小ささ、はかなさを痛感し、いとおしむ心境の反映でしょうか。
収録作品
秦州雑詩(しんしゅうざつし) 二十首 五言律詩
促織(そくしょく) 五言律詩
蛍火(けいか) 五言律詩
特典ダウンロード
ご購入のお客様への特典として、
各回の収録作品を掲載した「ファンタスティック!漢詩ワールド」ミニテキスト(PDFデータ)
をプレゼントいたします。
※商品版の音声と一緒にダウンロードいただけます。
講師:宇野直人(うの・なおと)
昭和二十九年、東京生まれ。早稲田大学大学院文学研究科博士課程修了、文学博士。現在、共立女子大学国際学部教授。著書に『中国古典詩歌の手法と言語』(研文出版)『漢詩の歴史』(東方出版)『漢詩の事典』(共著、大修館書店)など。平成十九年、NHKラジオ「古典講読――漢詩」講師、平成二十年より同「漢詩をよむ」講師。
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