内容紹介
「……俺はどうしてコンナ処に立ち佇どまっているのだろう……踏切線路の中央まんなかに突立って、自分の足下をボンヤリ見詰めているのだろう……汽車が来たら轢ひき殺されるかも知れないのに……。」
小学校で算数を教えている教師の彼は、今にも汽車に轢かれそうな不吉な予感を感じていた。不眠症がこうじた結果、頭が非常に悪くなっていることを実感していた。
学校へ出かける途中に、ふと鉄道線路に行こうと考えた。そして、線路に片足を踏み出しかけた瞬間に、何かに気づいて踏みとどまった。彼は鉄道踏切の中央に佇まっていた本当の理由を思い出した。
彼は、昨年の正月から二月にかけて最愛の妻と一人の子・太郎を追い剥ぎに亡くしたのだ。太郎には、決して線路を歩くなと言い聞かせていたが、彼が線路を歩いていたのを見た太郎は駆け寄ってきた拍子に事故にあった。衝撃的な事故は周りの人間さえも同情するほどだった。
それでも、学校に通った彼の姿を見て、学校の連中は彼の見違えるほどの姿に動揺した。彼は思い出を繰り返しつつ線路際を伝い始めた。
そして、ある日のこと昔から聞こえてきた謎の声に呼びかけられた。果たしてその声の正体とは?悲しい男の救いのない結末とは?
夢野久作(ゆめの・きゅうさく)
日本の小説家、SF作家、探偵小説家、幻想文学作家。 1889年(明治22年)1月4日 - 1936年(昭和11年)3月11日。
他の筆名に海若藍平、香倶土三鳥など。現在では、夢久、夢Qなどと呼ばれることもある。福岡県福岡市出身。日本探偵小説三大奇書の一つに数えられる畢生の奇書『ドグラ・マグラ』をはじめ、怪奇色と幻想性の色濃い作風で名高い。またホラー的な作品もある。
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