内容紹介
黄色い桐油の旅合羽を着た若侍が一人松の間に平伏している。その前後に二人の髭武者が立ちはだかっていた。どうやら若侍が髭武者達に絡まれているようだ。
黒田藩・石月平馬は忍び寄りながら考えた。さまざまな考えを巡らせている内に平馬の腕が唸ってきた。
自分の家柄を考えると要らぬことに関わらない方がいいと考えたが、気の毒な若侍の姿を見るとどうしても後へ引けなかった。
なぜなら、平馬は黒田藩一刀流の指南番、浅川一柳斎の門下随一だったのだ。二人が前後から若侍を挟み込むと、サッと払い除けて思わぬ速さで横に飛び込み、松の影から出てきた平馬にバッタリ行き当たった。
無言のまま後ろに押しまわすと、平馬は二人の髭武者達と真正面に向かい合った。平馬はあっという間に二人を退治し、若侍を助けた。二つの死骸の切り口を確かめるように平馬はそろそろと近づいた。
そして、刀をぬぐい納めると独り言を言い放ち深いため息をした。若侍が平馬を見ると返り血ひとつ浴び得ていなかった。
その後、明るいところで向かい合ってみると、平馬でも女かと疑うほど妖艶な若侍だった。事情を聞いてみると、若侍は仇討の旅の途中だったのだ。そして、その仇討の思いがけない相手とは一体。
夢野久作(ゆめの・きゅうさく)
日本の小説家、SF作家、探偵小説家、幻想文学作家。 1889年(明治22年)1月4日 - 1936年(昭和11年)3月11日。
他の筆名に海若藍平、香倶土三鳥など。現在では、夢久、夢Qなどと呼ばれることもある。福岡県福岡市出身。日本探偵小説三大奇書の一つに数えられる畢生の奇書『ドグラ・マグラ』をはじめ、怪奇色と幻想性の色濃い作風で名高い。またホラー的な作品もある。
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