何故お稲荷さんは御利益をくれたのか
【あらすじ】
まったくお客の来ない茶店の親父が、何とかお客に来て貰おうと近所のお稲荷さんに願掛けにいきます。するとそのお稲荷さんの神様が、この親父の願いを聞き入れてやり、一足の草履を売るたびにその後からまた一足草履がどこからか「ぞろぞろ」と湧いてくるようにして下さいました。おかげでこの茶店は大繁盛。その話を聞いた、やはりお客の来ない近所の髪結床の親父が、同じお稲荷さんに願掛けに行くと……。
【聴きどころ】
これまでこの落語を演じていた噺家は、お稲荷様の気まぐれから茶店の親父に御利益を与えるという演出でこの噺を演じていました。しかし、それではあまりにも話がご都合主義すぎます。そこで吉窓師匠は倒れていた神社の幟を元に戻してやるというエピソードを付け加えました。こうすると噺の辻褄が合う上に、「あの幟は子供たちが倒したものでしょうが、悪気でやったんじゃありませんので、勘弁してやって下さいまし」という吉窓師の台詞で噺に暖かみが加わります。ひょっとするとこの吉窓師のやり方が、この落語の新しい型になるかもしれません。
【もうひと言】
落語は基本的に荒唐無稽な噺ばかりです。その中でもこの噺は荒唐無稽の最たるものですが、吉窓師の語り口にかかると、この不思議な設定の噺にリアリティが生まれます。これは落語の力と言うよりは、吉窓師の腕によるところが大きいでしょう。
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