内容紹介
山本周五郎は「文学には“純”も“不純”もなく、“大衆”も“少数”もない。ただ“よい小説”と“わるい小説”があるばかりだ」を信念とし、普遍妥当性をもつ人間像の造形を生涯の目的とした作家で、時代小説を中心に沢山の作品を残しています。
その作風は今なお古臭さを感じさせず、繊細に描かれた人の心の機微や人情に、思わず笑わされたり、胸を打たれたりする魅力に溢れています。
<あらすじ>
茂次は大工の若棟梁だが、川越に出仕事に行っている間に、江戸で起こった大火事で両親も店も失ってしまう。自力でどうにか家業を再興させようと息巻くが、同じ火事で焼け出されて親を失ったおりつを放っておけず、炊き出しの世話などをさせる名目で彼女を引き取ることを決める。
だが、おりつもまた火事で孤児になってしまった子供たち十二人を放っておけずにいた。さすがに茂次も子供たち全員を引き取る事には難色を示したが、子供たちの世話をしてくれる人も見つからず、面倒を見ることにするのであった。
だがある日のこと、福田屋久兵衛が茂次の元に町方同心の中島市蔵を連れて来た。その用件は「孤児を大勢養っているのは不法だ」というのである。孤児の始末は元の町内に引き取らせるか、お役人に任せるかのどちらかにしなければならない、このままではお上にも憚りであるし、町内に迷惑にもなる……それを聞いたおりつは割って入り、
「町内の迷惑になるとはどういうことなのか」
と詰め寄るのだが……
山本周五郎(やまもと・しゅうごろう)
1903〜67年。小説家。山梨の生まれ。本名・清水三十六(さとむ)。名は生まれ年からつけられ、筆名は東京で徒弟として住み込んだ質屋「山本周五郎商店」にちなんだ。20代前半に作家活動を始め、39歳の時『日本婦道記』が直木賞に推されたが受賞辞退。その後も多くの賞を固辞する。江戸の庶民を描いた人情ものから歴史長編まで作品は数多い。代表作には、「樅(もみ)ノ木は残った」「赤ひげ診療譚」「おさん」「青べか物語」「さぶ」などがある。1987年9月には、「山本周五郎賞」が新潮文芸振興会により設定された。
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