内容紹介
山本周五郎は「文学には“純”も“不純”もなく、“大衆”も“少数”もない。ただ“よい小説”と“わるい小説”があるばかりだ」を信念とし、普遍妥当性をもつ人間像の造形を生涯の目的とした作家で、時代小説を中心に沢山の作品を残しています。
その作風は今なお古臭さを感じさせず、繊細に描かれた人の心の機微や人情に、思わず笑わされたり、胸を打たれたりする魅力に溢れています。
<あらすじ>
小料理屋「ふじむら」で人気の芸者・お民は、若き武士・梶井半之助と身分違いながらも想い合って人目を忍ぶ逢瀬を続けていた。
そんな最中、喜右衛門という富豪の老人から世話をしようという話が出た。三月ばかり体に変調を感じていたお民は、もしこれが間違いでないとして、半之助に迷惑を掛けられないとすると、少なくとも身二つになるまでは誰かの世話にならねばならなかった。そこで十三から奉公に来た時から可愛がってくれた喜右衛門を頼りにしようと考えたが、喜右衛門は予想に反して承知せず、世話をする代わりにはそういうものをすっかり始末しろと言うのであった。
身勝手な空想はすべて破れ、身の安全を取るか半之助への想いを取るかで思い悩むお民。
しかし、半之助は同僚の武士・森田にお民との関係について正論をぶつけられてやりこめられてしまい、果し合いの末に森田を斬ってしまう。結局半之助はこの一件を大いに恥じ、お民が身籠ったことを知らぬまま江戸へ行くことになった。「本当に愛していた」という言葉を残して……
山本周五郎(やまもと・しゅうごろう)
1903〜67年。小説家。山梨の生まれ。本名・清水三十六(さとむ)。名は生まれ年からつけられ、筆名は東京で徒弟として住み込んだ質屋「山本周五郎商店」にちなんだ。20代前半に作家活動を始め、39歳の時『日本婦道記』が直木賞に推されたが受賞辞退。その後も多くの賞を固辞する。江戸の庶民を描いた人情ものから歴史長編まで作品は数多い。代表作には、「樅(もみ)ノ木は残った」「赤ひげ診療譚」「おさん」「青べか物語」「さぶ」などがある。1987年9月には、「山本周五郎賞」が新潮文芸振興会により設定された。
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