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昔、あるとき、お金持ちの父親から遺産を残らずもらいうけた息子がいました。
贅沢三昧を繰り返したのち、彼は財産を失くしてしまいます。友達もいなくなりますが、
でもなかで一人、親切な友達がいて、古いかばんを一つくれました。
かばんには、「これに何かおつめなさい」と書いてありました。
いやどうも、これは大変ありがたいことです。けれど、あいにく
何もつめるものがないので、彼は自分がそのかばんの中に入りました。
ところが、これが、とんだとぼけたかばんでした。
錠前を押すと空に舞い上がるのです。ひゅうッ!
さっそく、かばんは飛行をはじめ、彼を乗せたまま遠くまで飛んでいきました。
まあ、こんなふうにして、彼はトルコの国に辿り着きます。そしてそこで
たいそう美しいお姫様に出会います。王さまも彼を気に入りご婚礼が決まります。
さて、この飛行かばん、はたして彼に幸せをもたらしてくれたのでしょうか?
アンデルセン童話、第一集に収められたちょっぴり滑稽なお話です。
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●著者:ハンス・クリスチャン・アンデルセン(Hans Christian Andersen)
デンマークの国民的文学者。オーデンセの貧しい靴直し屋に生まれ、幼少の頃から
父にアラビアンナイトなどの物語を読み聞かされ育った。その父が早くに亡くなったため
学校を中退せざるをえず、俳優を志してコペンハーゲンへ行くものの、途中で挫折する。
苦しい生活の後、政治家コリンの援助もあり大学を卒業する。国外を遊学し、その際の
イタリアでの印象と体験より「即興詩人」を著す。1835年「童話集(お話と物語)」を
発表し、以後、死ぬまでの40年で150余編の童話を書いた。グリムと童話文学の始祖として
並び称されるが、グリムと違い、創作童話の多さが特徴的である。
■翻訳:楠山正雄(くすやま・まさお)
東京銀座生まれ(1884〜1950)。早稲田大学時代に坪内逍遙や島村抱月に師事。
大学卒業後の1907(明治40)年、早稲田文学社に入り編集者としてのキャリアを始める。
そして読売新聞社を経て、1910(明治43)年、冨山房に入社。そこで「新日本」の
編集主任として励むかたわら、一方で逍遙の「文芸協会」に参加し、評論あるいは
翻訳劇脚本家として活躍する。文芸協会解散後も抱月の芸術座に続いて参加し、
しばらく編集者と演劇人の二足のわらじを履いていたが、1915(大正4)年、
冨山房社長の命を受け、「模範家庭文庫」の担当となる。親交のあった岡本帰一に
ヴィジュアル面を託し、他人の原稿を編集するうち、児童文芸への意識が高まっていく。
やがて自らも文庫の執筆に手を出し、また児童向けの創作や翻訳も意欲的に行う。
1945(昭和20)年の終戦後は、様々な文化が復興の力に湧き、正雄も演劇界・
児童文芸界双方に尽力する。
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